宇祖田都子の短歌の話

森羅万象を三十一音に

#大晦日108首チヤレンジ と ブログの引っ越し

あけましておめでとうございます。

Hatena Blogでは初めまして。宇祖田都子(うそだみやこ)です。

短歌のブログを書いています。引っ越しは二回目です。

始めはnoteに間借りをするところから始め、独立したのがg.o.a.tというブログだったのですけれど、そちらの閉鎖が決まって元旦早々から、引越ししてきました。

どうぞよろしくおねがいいたします。

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本と手帳と短歌帖

#大晦日108首チャレンジ のこと

2020年の12月31日。twitterで初めてこのタグをみて、「なんという苦行を」と思いながらも挑戦しました。それから1年かけてKISARAGIというメルマガ上で、自らその添削などしつつ、今年も当然参加するモードになっていたのです。

 前回は108の煩悩をそれぞれの短歌に当てはめ、108首のガイドラインにしました。さて、今回はどうしようか、と考えていると、去年今年の手帳が手元にあるのに気づきました。

 2021年の手帳に記したことを振り返って短歌にしよう。

一昨年くらいから、わたしは短歌を「創作の形式」と捉えて、「詩」というものを「飛躍」に求めていました。ですが、軸となるべき「詩」がわからないままいたずらに「手術台の上のミシンと蝙蝠傘」みたいな句を目指した結果、自分のなかの短歌観がメチャクチャになってしまい、好きな短歌がつくれなくなっていました。

この「業」を108首チャレンジで祓うべく、寺山修司さんから、石川啄木さんへ軸を戻そうと、そんな風に考えました。

テーマは「日常」です。散文的になってもいいしし、カタルシスがなくてもかまわない。とにかく、五・七・五・七・七の定形の数と響きを大切に、自分の一年を振り返ろうと決めたのでした。質より数です。それでとても気が楽になりました。

そんな108首を、ここに転載します。

#大晦日108首チャレンジ 2021年12月31日

001.本年の手帳に書いた様々なことを短歌にして年を越す
002.ほぼ日のweeksMEGA愛用し5年目の春仕事を変える
003.雇止め言い渡すため訪れたpepperみたいな元支店長
004.大晦日短歌チャレンジ中ですが洗濯物を干す 時間です
005.さっきまで天井裏に挟まって関節のこと考えていた
006.短歌っていわゆる短歌的すぎて日常だけが短歌を殺す
008.本当?って聞かない人が前だけを見て話すとき聞こえる渚
009.屋根裏にネズミの住まう家にいて齧られるのは骨だと思う
010.蟻が湧く穴を探して脱衣所に穴を探して脱衣所にいる
011.啄木と太宰が好きでココイチ松屋に通う男のnanaco
012.たくさんの締切り記す年間のスケジュール欄意味なくもなし
013.昼食の相談のためショッピングモールと回転寿司のプレゼン
014.年間の予定は応募締切りと健康診断予約で埋まる
015.15年後に解約を予定した定期口座を持ち越す手帳
016. 11時まだSUBWAYはすいていてあんこマスカルポーネも頼む
017.SUBWAYで細かく注文する声に家族を守る父性の響き
018.108の煩悩短歌読み捨てて振り返らずに生きていきたい
020.SUBWAYのあとKALDIにて食べたことないスパイスの名を母とする
021.KALDIにて買った全粒粉クッキー鞄の底に忍ばせスタバ
022.ショッピングモールのスターバックスのいつもの席で泣いてる子供
023.反省をするなどおこがましいことと明石家さんまさんが言ってた
024.リンリーンピロピロピロの鳴り響くスタバに駅のホームがだぶる
025.粉雪の舞う冬晴を三往復する洗車機を眺める日向
026.外壁にネズミの穴は見つからず雪は遠くから落ちてくる
027.落葉踏む音に似ている風音にとても似ている寝返りの音
028.大晦日泣く子と認知症の母並行宇宙のピタゴラスイッチ
030.寒風に目印として立つノッポまっすぐ西を指さしたまま
031.鉄塔に結界を張り悴んだ印を式神から遠ざける
032.的確な言葉とサプリと掃除機のアタッチメントをすぐくれる人
033.大晦日年に一回墓地で会う老女と子供の素性は知らぬ
034.ダイソンの掃除機のアクセサリーを並べて全部売ろうと思う
035.粉雪が窓を叩いて午後四時を告げるから大根でも煮よう
036.「漏水」が今年を表す言葉です来年はおそらく「殺鼠」です
037.ずぶ濡れの馬場あき子歌集を拾い凍らせてから乾かしてみる
038.遅まきのスマホデビューをした今年未だにSFみたいと思う
039.急速に身近になったふらんす堂ナナロク社書肆侃侃房等
040.「うたらば」に「眠らない樹」に「うたそら」に「笹井賞」など筆圧高め
041.二週間後に雇止め予告くる会社の健康診断予約
042.暗合のような数字と英文字は楽しく読んだネプリの記
043.失業が確定した日職安のホームページに気になる仕事
044.就活の時のスーツがまだ着れて二十五年は無かったことに
045.面接にマスクを忘れ大雨の朝飛び込んだドラッグストア
046.A4両面しない小冊子する右下とじ80円
047.退職の日にマカロンを配ろうと数を数えていて眠くなる
048.就職のお世話になった理事長へクビになったと渡すマカロン
049.車検入庫日は8日で出庫日は11日と記した手帳
050.大根を煮てゆで卵作る夕おでんおでんと鳴る虎落笛
051.この冷えは雪の冷えだと温暖な静岡県に住む人がいう
052.前日の21時より絶食新たな会社の健康診断
053.真夏には西瓜を食べる真冬には蜜柑を食べる自然の摂理
054.あの時にハローワークを検索し欠員1を見つけた奇跡
055.新しい仕事のことで真っ黒な手帳にponz句会の締め日
056.待ち合わせ場所は「きらり」と記されてそれは新興住宅地の名
057.甘いのも辛いのもあり硬いのも柔らかいのもある大晦日
058.スーパーで緑のたぬき奪い合いそれが二人の馴れ初めだとか
059.月に二度麻雀牌の七索(チーソー)のマークは父の墓を参る日
060.高校の隣があたらしい職場通学路が通勤路になって
061.祈りとは茹でた卵を剥くときに活性化する脳のはたらき
062.クリスマスディナーに買った赤ワイン大晦日にはドバドバと飲む
063.床屋から郵便局のあと図書館自動車税を払う土曜日
064.自治会の草刈に出る出なければ三千円を徴収される
065.唐突にカッパドキアと書いてあるおそらく夢にみた逃走絽
066.新しい眼鏡の貌に慣れる頃この仕事にも慣れるだろうか
067.クーポンに背中を押され初めての店でおしゃれなパエリアを食う
068.一度目のワクチンを打ち新しいキーボードで打つ獅子座同盟
069.一回り大きな現金書留があると初めて知った七月
070.一年に二回ケーキを買う店のフランス人の同じ冗談
071.業務用スマホと個人用スマホ入れたポーチは完全私物
072.墓地の草みんなで刈ってゆくゆくはみんなで入ることになるから
073.浄化槽清掃にくる人がみな優しく親切なのがうれしい
074.有給の午後に商工会議所でグルメカードを受け取る 田舎
075.図書館でバターケーキを食べ残しステーキガストのあと教会へ
076.ものすごく広い本屋がショッピングモールにできるユニクロのそば
077.連作のテーマを観覧車に決めて最寄りの観覧車を眺める日
078.初めての冬を迎える職場でのドレスコードがよく分からない
079.12月よくもわるくもびっちりと土日の欄が予定で埋まる
080.自選五首選ぶ基準を見失い金玉の歌以外は未定
081.クリスマスディナーは今年クーポンに背中を押されて行ったお店で
082.宝くじとは耳かきで大海を掬うみたいな確率らしい
083.昨年の暮から短歌に行き詰まり山羊のお題で息吹き返す
084.散文的すぎてパワーワードもなくて感情が凝り固まっている
085.寝巻から看護師の手にへにゃへにゃと洗われている老父のペニス
086.図々しい人三人が帰らないその駆け引きを短歌にしてる
087.何事もなかったようにふるまってがんばることをやめてしまおう
088.pepperの姿が消えたはま寿司でイカを多めに頼んでしまう
089.大好きな小説として広めたい『ヴィトゲンシュタインの恋人』を
090.「雨」すぐに止んだ「かりんとう」食べた「牛乳」なくなりそう「音」大事
091.14日猫ワクチンを打ちにいきギターに触れることなく終える
092.twitter自己顕示欲露悪主義独り善がりで御免なさいね
093.燻製を朝の川原で作る人ダイハツミラに荷物を積んで
094.「俎板」と一月二十日に書いてあるけれど昔のままの俎板
095.ロールちゃん買った日時と本数を手帳に記し歴史に残す
096.一時間ギターを弾いて離職票もらったらまた考えるから
097.成果など二の次でいい悪足掻きしてなきゃ本当に沈んでしまう
098.本採用決定通知得てミスド退職届を送ってスタバ
099.八時半五時半土日休みという堅気の仕事に馴染まぬ体
100.ゆっくりと『パン屋のパンセ』読み終えて見上げた空に見えてくる星
101.おそらくは父の遺品の腕時計ネット検索してホッとする
102.格闘技ならグランドが好みです言葉はあまり信じてません
103.LINUXインストールしたみたいにね一つ一つを試して進む
104.白シャツの男は銀行員だから拾った三千円を預ける
105.青葉風吹き抜けていく部屋にいて風と匂いは一体じゃない
106.毘沙門天十一(びしゃもんてんといち)という名が降りて来て創作落語を書け書けと言う
107.大晦日108首チャレンジ22時45分にしてあと一首
108.ハードルをグランドレベルに引き下げて短歌イップスから寛解
宇祖田都子
#大晦日108首チャレンジ

結び

結局、6月くらいまでの内容で、108首を揃えることができました。内容は凡庸な日常の記述を出るものではあり.ませんが、それでも完走できた充実感を得ることはできました。

2022年。私はこういう平凡な日常を定形の響きに耳を済ませながら短歌にしていきたいと、それが今年の抱負です。

それではまた。