宇祖田都子の短歌の話

森羅万象を三十一音に

#CD短歌夏フェス2022 sideA 短歌鑑賞ライナーノーツ

2022年8月6日(土)20時からtwitter上で開催された総勢50名+α出演の熱いフェス。

@CDTNK_since2014
【はじまります!】おおお待たせしました!ただ今より「CDTNK夏フェス2022」を開催します!
今年の出演TANKArtistsは50名!!ハッシュタグは #CD短歌夏フェス2022 !応援メッセージも同じタグでどうぞ!!
短歌で夏はまだまだ熱くなる!!よ!!!

熱気そのままのまとめはこちらに。

togetter.com

今回はこの中から、わたしがとりわけ好きだった短歌をいくつかご紹介し、わたしがその歌のどこに魅かれたのかを、ライナーノーツよろしく書いてみようと思います。うまく言語化できるかわかりませんが、私自身の覚書のつもりでやってみます。

掲載は出演順です。

短歌鑑賞ライナーノーツ

雀來豆@jackbeans2 様 連作『SISTER』 10首より

姉さんはチョコ、妹はバニラ、わたしは絶対に髪を切らないつもり

姉をチョコ、妹をバニラ、でも次女の「わたし」はその喩にのらない。「絶対に」という強い意志は、ひょっとしたら不本意な譬えられ方をした反抗心なのかも。でも「切らないつもり」という揺らぎに、そんな自分ですら信じきれない不安定さがにじみ出ていて好きでした。

弟が秘密のように舐めている食卓塩の真っ赤なキャップ

運動部なのかなと。食卓塩、あの小瓶がすぐに思い浮かびます。この食卓塩の姿ががーんと出て来くるところが好きでした。

月岡烏情@ujou31 様

人造腦 針の折れた電極 雨 夏といふまぼろしのかたすみ

文体が好きです。旧字体と文語に似合う世界にそぼ降る雨。〇〇醫院という看板が目に浮かびました。

緋の花の想像線を超えてゆく泪 蜚語 美しきくはだて

緋の花。出典があるのかもしれませんが私は不勉強でわかりません。それでも前の歌の世界観に統一されたモノクロームにパートカラーの緋は印象的で。悲劇は美しくあるべきと運命に従う諦観など、深い物語性を感じて好きでした。

koizumi kio /キオ@kiokoizumitanka 様

レアチーズケーキの横に添えられてミントは小さな日陰を作る

添えられたイラストも素敵で、このミントが作る小さな日陰が、ケーキ皿、レアチーズケーキの白白白に俄然、存在感を与えている。この発見。味も香りも舌触りも、そしてこの喫茶店の雰囲気も全てが完璧に想像できて好きでした。

インアン🍔(In-N-Out@InAn_erotica 連作『八星』八首より

その時はどうか滅亡したことに誰も気づいていませんように

AIのイラストと相まって神秘的な宇宙観が広がっていました。ノストラダムスの大予言は、実は的中していて1999年7月以降、地球は滅亡しているのに、だれもそれに気づいていないのだ、という話を想い出します。優しさのような怖さが好きでした。

東こころ@cocoronohana 様

遠い月だったあなたとキスをしていびつな夜が生まれてしまう

ただ見ているだけの悲しい幸せが、思いがけず接触してしまったことから、全く未経験の領域へ踏み込んでしまった。それが幸せなのかどうかすらわからない不安。だけど、何かが生まれるときというのはきっと、そんな風なのだろうと感じました。いびつさが歴史になるんだなと感じさせてくれるところが好きでした。

龍翔(苗字探し)@oppizuntsuan 様

恋人に家を追い出された俺の開襟シャツのふるえる金魚(龍翔)

強面だけど弱いのでしょう。金魚はすごくリアルな図柄で、レーヨンみたいなテレッテレの大きめのシャツだから、すこしの風や体の動きに反応してバタつくのですね。俺は平気だけど俺の金魚がふるえているぜ、みたいなところが好きでした。

泳二@Ejshimada 様 カウントダウン短歌夏フェス2022主宰

俺のこといま相棒って呼んだのか 変な言葉を使うんだな、龍

龍という名前にひっぱられたのかもしれませんが、村上龍のコインロッカーベイビーズとか、愛と幻想のファシズムなんかを彷彿としました。龍さんはまだ、俺をどう呼べばいいのかわからない。そんなとまどいから「相棒」と呼び掛けてみた。そこがなんともくすぐったかったり、ちょっと残念だったりする俺。二人の感情の機微が好きでした。

しま・しましま@simashima9 様

この辺りから海が見えはじめるはずとわかっていても唐突な青

一度来た、いや通いなれた道であったとしても、この角を曲がると、トンネルを抜けると眼前にそれが広がることを、待っていたはずなのに、いざその時が訪れるとつい「海だぁ」と叫んでしまう感じ。海の青はいつだって、想定よりも深く明るくて。そんな高揚感が好きでした。

中村成志@nakam8 様 『部屋に転がっていた本の106ページ数行とそれに対する反歌』4首より

上質の水まんじゅうの硬さにて山羊の乳房を巡る血流 『カヨと私』 内澤旬子

全体の構成が素敵で、朗読の演出が素敵。声も素敵で、文体も素敵。全部好きですが、三首をピックアップしました。「血流」という体言止めがかっこよくて好きです。

1/6フィギュア「ノーナ」の沈みゆきウユニ塩湖に波紋は満ちる 『超可動ガールズ』第一巻 OYSTER

「ウユニ塩湖に波紋は満ちる」がかっこよくて好きです。

空間を縦横高に割いてゆく指の硬さを絵画と思え 『騎士団長殺し 第2部』村上春樹

「思え」という結句の命令形に痺れます。「指の硬さを絵画と思え」ただただ好きです。

千原こはぎ@kohagi_tw 様 Website and Logo Design
『七物語2022』雨あがり より

今年初すいかをひとり食べているあなたを夏に連れていかない

さまざまな企画、イベントでお世話になっています。朗読の声がきれいでしずかで、ずっと流していたくなります。この歌。べつに「あなた」に伝えていないのです。独り言なのです。いや、言葉にすら出していないのです。大きな西瓜をもらって、一緒にいたときはそれを運ぶことも切ることも冷蔵庫へ入れることも、冷蔵庫に入りきらないことも、食べることもみんなイベントになっていたのに、たんたんとシャリシャリと初西瓜を食べている夕方なのです。遠くに花火が上がる夜なのかもしれない。そんな温度感が好きでした。

去年買った傘が使いたくなったから出かける理由はそんなのでいい

「そんなのでいい」という朗読の音声が、なげやりでさびしげなところが好きでした。「そんなのでいい」とは思っていないのですね。そうすると「去年買った傘」にいわく因縁が感じられてくるのですが、案外、デート途中で雨になりそうで彼に買ってもらったコンビニ傘だったけど結局降らずに使わなかった、という感じの傘で。それが意味をもつようになってしまったのですね、今年は。すると、出かける理由は、その傘を返しにいく、だったりするのかも。でも、いかないけどね。という物語が広がるところが好きでした。

ネコノカナエ@nekonokanae_uta 様

ゆうぐれの縁石たちはワニになりよろず数えるなら通りゃんせ

これはもう「見立て」の素敵さが好きでした。そして自分ルールの一人遊びして帰るシチュエーションは、夕暮れに伸びるシルエットの景色を浮かび上がらせて。帰りたいような帰りたくないような、なにもかもが何かの途中でありながら、でも猶予はないという切迫感の宙ぶらりんをぴょんぴょん飛んでいく小さな影が見えるところが好きでした。

河岸景都@kate_kawagishi 様

夏の日の水底に棲むいきものよ眠らぬことを選んだ魚

回遊魚は泳ぎ続けなければ生きていけないと聞きました。またほとんどの魚には瞼がないそうです。そこに選択を見出したところが好きでした。夏はまた、自分も眠らぬ街を回遊する魚のようではないか。眠らないことを選んだのではない自分は眠りたいのに眠れないのだろうなと。選択の余地について考えさせらえたところが好きでした。

Mika@Mika_tanka 様

あなたへとつながる世界であるのなら大体何でも許せるのです

「貴方の存在があるからわたしはなんとか生きられる」という橘いずみさんの歌を想いました。優しくなれるし、耐えられる。それはあなたの眼差しを感じられるから。そんな相手をもつことは幸せなのだと思います。わたしにもそういう人がいて、その人に伝えて恥ずかしくないことをしよう、なんて自らを律したりもしますし。だけど、こわいのは、「あなた」へ繋がらない世界がおとずれたとき。これは宗教の歌ではないけれど、宗教に転化されたらおそろしい歌になるのかもなんて考えちゃうところが好きでした。

星野珠青(ほしのたまお)@hsn_tmo 様 『会おうよ』掲載の30首連作「会おうよ」より

平凡に暮らす才能 賞罰の欄だけなにも書くことがない

分かります。手のかからない子だったのです。「都子は大丈夫」とほおって置かれることの多い人生を送ってきました。それが楽だとも思いましたし。だけど自分、パーマかけて生活指導にはたかれたりしたことあったりします。わりとストレスたまる生き方なのです。平凡に暮らすってことは。と、懐古的になってしまったところが好きでした。

木野葛紗 a.k.a. こだぬき@blueregret 様 テーマは「奇遇」より

おみくじを心ゆくまで引き直しひとつひとつの奇遇を捨てる

おみくじ引き直し問題が抱える別の闇(?)を照らし出した発見が好きでした。それぞれのおみくじにはそれぞれの出会いと別れが多分余白に記されている。それを自分の欲得のみでどんどん捨てて引き直すとき、失われる命があるのかもしれない、なんて思いました。

ソウシ@sixia0uT8BMBIgp 様 『暑中お見舞い申し上げます』

お互いの土地の祭りを送り合う暑中お見舞い申し上げます

ソウシ様の歌はどれも、上の句が俳句として完成していると感じました。「それにつけても姫のいとしさ」(by 新右衛門さん)「それにつけてもおやつはカール」「今だ出すんだブレストファイヤー」など、万能の下の句探しも楽しいです。この歌で「はっ」としたのは「お互いの土地の祭りを送り合う」という、共同体間の交通というか、おどろおどろしい交易的ななにかを感じるところが好きです。土地のお祭り絵葉書などを送り合う、という何気ないやりとりのなかにも、土着の歴史の怨念のようなものを感じます。金田一耕助の世界です。

以上でした。独断と偏見にみちた読みですが、わたしはこんな風に受取、「好きです」を伝えています。

sideBでは、自作のライナーノーツをお送りします。

それでは。