宇祖田都子の短歌の話

森羅万象を三十一音に

「#2023年自作短歌五首を呟く」と「2023年自作短歌拾遺」

はじめに

#2023年の自選五首を呟く をやってみました。

その中での気づいたのは、「自分がどんな短歌が作りたいのかを考える余地があるということは、たぶんまだ、ちゃんと短歌に取り組めていないのだろうな」ということです。わたしは悪い意味で「アルチザン」的な面があって、絵画も楽器も俳句も小説も、書いてみたいので練習はしますが、「これが表現したい」という熱情に薄いのが、そもそもいけないのだなと。いつか、そういう熱情がたぎった時に備えて、いろいろな表現方法に習熟したい。というおかしな情熱だけが、どうやらわたしにはあるみたいです。

だから、わたしの短歌はブレブレなのですね。

なので、1年間に作った短歌を自ら反芻して、「好きな声」を拾っておこうと思ったのです。そして今後それらをいくつかの声音に分類して、わたしがどんな短歌が好きなのかを知る手がかりにしようかと、こんなことをしています。

それではまずは「#2023年自作短歌五首を呟く」から。

#2023年自作短歌五首を呟く

1月26日 うたの日『 風 』 旅先で「円」を両替した国の通貨単位が「風」だったこと   3月27日 うたの日『 気球 』 2番線気球が通過いたしますそっと瞼を閉じてください   4月12日 うたの日『 空 』 「空はじめました」ののぼりはためかせ軽トラックが海から戻る   野良之コウモリさんの【一募一絵】vol.12 ジャンヌダルクなんて知らない従順な夏の亡者を率いて真冬   12月4日 うたの日『繋』 一本の黄色いヒモに大量の幼稚園児が繋がっている

#2023年自作短歌五首を呟く

1月26日 うたの日『 風 』
 旅先で「円」を両替した国の通貨単位が「風」だったこと

3月27日 うたの日『 気球 』
 2番線気球が通過いたしますそっと瞼を閉じてください

4月12日 うたの日『 空 』
 「空はじめました」ののぼりはためかせ軽トラックが海から戻る

野良之コウモリさんの【一募一絵】vol.12
 ジャンヌダルクなんて知らない従順な夏の亡者を率いて真冬

12月4日 うたの日『繋』
 一本の黄色いヒモに大量の幼稚園児が繋がっている

 

2023年自作短歌拾遺 (→は推敲です)

1月7日 #RIUMさんの初句
 この先は腕力だけが物を言う これは羽ばたくための筋肉

1月8日 RIUMさんの#連想短歌 #イラスト詠
 それぞれにボトルシップは出航し瓶は再び星屑になる → ふたたび

1月26日 『 風 』
 旅先で「円」を両替した国の通貨単位が「風」だったこと

2月5日
 家にある椅子の数だけ猫が居て猫の数だけ皿のある家


2月9日 『 鶏 』
 鶏が自由を謳歌する庭のそこここにある卵の温み

2月21日 『 ドロップキック 』 
 『るるぶ』にも『ことりっぷ』にも「名物はドロップキック」と書いてある島

2月23日 『 温 』
 温かな石をみつけて握りしめ冷たい石にする昼休み

2月28日 RIUMさんの#初句
 鮮明な2分5秒の動画から駱駝を消して曖昧にする

3月6日 RIUMさんの#初句
 春までに五階の部屋に引っ越して七階にいるあなたに迫る

3月6日 RIUMさんの#初句
 春までにあとどれくらいチラシ寿司? コーヒーカップなら何回転?

3月7日 木野喜久子さんの#上の句
 幻獣がホームに凛と立っている通勤定期の期限は切れて

3月7日 RIUMさんの#連想短歌 欲求
 YES/NOまくらが二つともYESふとん圧縮袋の中で

3月7日 木野喜久子さんの#上の句
 半額にしてもやっぱり売れ残る円周率の後ろ100桁

3月9日 木野喜久子さんの#上の句
 実はこれ半分日記なんですよもう半分は猫なんですが

3月11日
 白菜を使い切れずに捨てるとかそんな荒んだ十代でした


3月18日 RIUMさんの#初句
 途中から雨の音だけ聞いていた目覚めたときは一人がいいな

3月22日 『 遊 』
 遊園地好きじゃないから遊園地従業員になった それだけ

3月23日 RIUMさんの#連想短歌 「勝負」
 鏡より速く動ける元カレを追い抜いて行け東京無線

3月23日 RIUMさんの#連想短歌 #イラスト詠
 ガチャガチャに死んだ何かが入ってる脚がたくさんある何かの死

3月23日 『 私 』
 私書箱はザトウクジラの屍の歌を再生するオルガンに

3月27日 RIUMさんの#連想短歌 #イラスト詠
 ドラえもんの手足頭を取り外し真上から見た絵という答え

3月27日 RIUMさんの#連想短歌 #イラスト詠
 見たことのないおじさんのシャボン玉見たことのない壊れ方した

3月27日 『 気球 』
 2番線気球が通過いたしますそっと瞼を閉じてください

3月27日 RIUMさんの#初句
 春だから春の切符を差し出して少し乗り越すつもりで眠る

3月29日 RIUMさんの#連想短歌 #イラスト詠
 表札がチョコでできてる峰岸の家の二階に住みつく家族

3月30日 RIUMさんの#初句
 遠くまでお願いしますと言ったきり沈黙だけを運ぶタクシー

4月3日 RIUMさんの#連想短歌 データ
 こんばんわ症例Sはわたしです北京ダックが大嫌いです

4月10日 RIUMさんの#連想短歌 #イラスト詠
 こうすれば薄い紙でも立つんだね まだ読む気にはなれない手紙

4月11日 『 室 』
 あのそれは室内楽というもので外へ持ち出すのは禁止です →「」

4月12日 『 空 』
 「空はじめました」ののぼりはためかせ軽トラックが海から戻る

4月14日 RIUMさんの#初句
 あなたから始めた嘘がもたらした古いわたしのバージョンアップ

4月16日
 チェルシーが食べたくなって真夜中の環状線を地球へ向かう

4月16日
 唯一のパン屋のパンが売り切れて次のパンまでパン待ちの町

4月21日 RIUMさんの#連想短歌 別れ
 太陽系を出る瞬間の「ありがとう」一人でも言う「おやすみなさい」

4月26日 RIUMさんの#初句
 見えている自販機下の10円に手が届かない まるで月だね

4月26日 RIUMさんの#初句
 見えているけれど見えないフリをして下北沢の話などする

4月27日 RIUMさんの#連想短歌 他人
 わたしかもしれない人とすれ違い振り向いちゃった なんか悔しい

4月29日 RIUMさんの#連想短歌 #イラスト詠
 相続は破棄するけれどクレヨンはわたしのなまえがあるのでもらう

4月30日 RIUMさんの#初句
 もうこれで下井草には用がないだから東京にはもう来ない

4月30日 『 いやらしい 』
 いやらしい花の名前のしりとりのポインセチアが物議をかもす

5月4日
 とりあえずピンクに塗るの塗ってから好きか嫌いか哲学するの

5月10日 RIUMさんの#連想短歌 気のせい
 真夜中にまつぼっくりが落ちるとき「あっ」と小さな声が聞こえる

 さっきから東急東横線急行小手指行に尾行されてる

5月10日 『 帰 』
 帰宅してすぐにパジャマになるひとが間に挟む全裸の時間
 
5月14日 RIUMさんの#連想短歌 #イラスト詠
 留め金がバカで閉じない傘だけどさしてる限りバカはばれない

5月14日 『 出来 』
 飛ぶことは出来ないけれど少し浮くくらいは出来る人とのデート

5月20日 RIUMさんの#連想短歌 #イラスト詠
 一本のパラソルチョコを分け合って虹は案外濡れているのよ

5月20日 RIUMさんの#連想短歌 #イラスト詠
 ジャンプ傘なんて素敵なネーミングわたしもジャンプホモサピエンス

5月23日 RIUMさんの#連想短歌 #イラスト詠
 モナリザはモナとリザとに分裂し生きたまんまで腸まで届く

5月24日 『 それ 』 
 片方のピアス失くせば永遠にそれは片方失くしたピアス

5月27日 RIUMさんの#初句
 今日中に金魚すくいをしたいなら蟹座の人に乗り換えなさい

5月31日 『 浮 』
 少しだけ浮かんで見せて一瞬でいいからわたしの星を離れて

6月3日 『 雨 』
 いつどこで誰と聴くかが大事なの地球は雨の打楽器だから

6月4日 RIUMさんの#連想短歌 追憶
 蝉時雨夕日に溶けていく背中届かない声焼け落ちた橋

6月10日 RIUMさんの#連想短歌 高級
 西川の羽毛布団が捨ててある一坪程の銀座の空地

6月15日 『 衣 』
 ダンボール箱に衣類とマジックで書いてあるただそれだけの嘘

6月20日 『 NO 』 
 帰国子女のNOが強くて店番の従兄がくれたミドリガメだよ  → アシダマナだよ

6月23日 RIUMさんの#連想短歌 無茶
 予報では午後からラー油が降るらしく餃子の皮でつくった合羽

6月24日 RIUMさんの#連想短歌 #イラスト詠
 不発弾処理をしている向日葵の畑にあった歯車一つ

7月10日 suiu
 風が葉を奏でる音に意味はないだからこんなに宇宙は近い

7月13日 RIUMさんの#初句
 夏だからという理由で許される失敗だけを繰り返したい

7月14日 『 遠距離恋愛
 片想いしてるときより遠いってこれが相対性理論なの?
 
7月16日 suiu
 これがこの地球最後の一本の線香花火だよ火をつけて

7月17日 『 淫 』
 清冽な水に沈んだ豆腐すら淫らと思う十四の夏
 
7月22日 suiu
 水曜の午前0時が集配の郵便ポストを囲む鬼百合

7月22日 『 孔雀 』
 躊躇せずバットで叩き割るがいい西瓜が夏の心臓ならば


7月24日
 アパートは六畳一間孔雀付き一畳半は広げた羽根に

7月31日 『 底 』
 川底にわたしの名前が書いてある石がたくさん沈んでいます
 
8月2日 『 茶 』
 きつすぎずゆるすぎずという微妙さで茶筒の蓋が仕事している

8月11日 『 自由詠 』
 もう元の姿に戻ることはないビニール傘が照らされている

8月19日
 手の甲に日時と場所の記しある江間歯科医院受付係

8月19日 suiu
 ハンガリーにて幅跳びを跳ぶ人の背後に上がる地元の花火

8月25日 『 聾唖 』
 目で聴いて指で話をする人の耳たぶにある三つのピアス

8月31日 #満月の夜に短歌をつぶやく
 満月を掘り出すビーチフラッグス鳥取砂丘に並べたお尻

9月2日 『 麺 』
 カップ麺ぶっかけられた顔映す水槽のグッピーがきれい

9月3日 suiu
 御守に明かせぬ嘘をしたためし母の利き手でないほうの文字 

9月3日
 時間迄身を潜めゐし「純喫茶アフリカ」といふ半地下の席


9月3日
 無花果のまだ青き実の香り立つ夜間救急外来入口


9月7日
 こほろぎとあだ名されたる友とゐて台風予報円狭まりぬ


9月17日
 片時も赤きクレヨン手放さぬ子を抱く母の唇青し


10月1日
 幻の猫がいるから踏まないで そこにいるからもう踏まないで


10月14日 『 寧 』
 くしゃくしゃに丸めた紙を丁寧にデッサンすればくしゃくしゃな紙
 
11月12日
 陽だまりの祖母のピアノの調律に来る牧師のロザリオ古し


11月12日
 東北の雪の便りをかき消して中華鍋振る夜のチャーハン


11月13日
 知り合いに電車で遭遇して以来沈黙が歯に挟まったまま


11月13日
 テルミンを北極点に突き立てて気圧配置を奏でる区長


11月14日
 月下美人軽く湯がひて二杯酢でシャリシャリ食みぬま白き花弁


11月14日
 三秒で二tの砂が落ちるよう設計されている砂時計


11月15日 『 立 』
 鳩サブレ立てておきます留守中に我を忘れてしまわぬように

11月16日
 シリウスが水面に映る水槽で増えたり減ったりしているメダカ


11月27日 『 隣 』
 アパートの隣の部屋のドアノブに昨日からいるカマキリの雌
 
12月19日  野良之コウモリさんの【一募一絵】vol.12
 ジャンヌダルクなんて知らない従順な夏の亡者を率いて真冬


11月29日 木野喜久子さんの#下の句
 着崩れた十二単で思い出す三鷹に昔あった階段

12月16日 『 返 』 
 借りていたビニール傘を返すだけ ただそれだけのための有給

12月15日
 食卓をスネアドラムの転げ落つ音に慄く夜半過ぎかな

12月9日 『 稀 』
 ごく稀に東中野の立ち飲みでそっと包んでくれるシナチク

12月4日 『 繋 』
 一本の黄色いヒモに大量の幼稚園児が繋がっている

12月3日
 はっきりと会話が聞こえ窓際の人を支持しかける喫茶店

以上です

推定微罪 十首 ―たにゆめ杯4(2023年)選外

はじめに

2023年12月30日。たにゆめ杯4の結果が発表になりました。

drive.google.comm毎回、選考過程を丁寧に示し、入選作への評もひじょうに読み応えがある、じっくり読み込むべき報告資料です。

自作の反省点としては「連作とは?」という基本的な認識が甘すぎたこと尽きます。

詳細は前回のブログに書いたとおりです。ある最終目標に向けて緻密に計画をたてて、着実に実現していくこと。わたしはそれが大の苦手で、行き当たりばったりの寄せ集めが、意外な雰囲気を醸し出てくれはしまいか、とそちらばかりに期待してしまうのです。実際は、綿密に進めていく上で、どうしても生じてしまう不可避的な齟齬や限界が孕む不随意性にこそ、「意外性」は可能なのであり、わたしの方法は、単にズボラな神頼みにすぎませんでした。

「わたしは、この連作でどんな感触を再現したいのか?」を、追求していかねばなりませんし、この姿勢において「連作」には「短歌」でも「俳句」でも「小説」でも「水彩」でもなんでも当てはまるのだということを、十分に叩き込まねばならないと、年の初めからガタガタふるえている次第です。

と、長くなりましたが前置きはこれくらいにして、「たにゆめ杯4」応募選外作を掲載いたします。これは、いつでも振り返り、反省し、推敲できるようにするための方便というつもりです。

それでは。

推定微罪 ―たにゆめ杯4(2023年)応募選外作

推定微罪 十首  カーテンに透ける朝陽を滅亡のフィルターにして微笑む微罪  青空がバックネットを突き抜けて教室に来るまであと二分  五線譜に一度捕らえた鳥たちを英語ノートへ貼り付けていく  街角の悪意を拾い私書箱へ届けるだけの課外活動  カフェオレに過度な甘さを感じつつ進路希望に伏線を張る  讃美歌を着信音にした姉の無言電話に折り返さない  赦します ただそれだけをしたためた喪中葉書を紛れ込ませる  どの国で何に使うか聞きもせず作って納品したプラカード  留置所に備え置かれた砂時計わたしのせいで数秒狂う  守られることなく消えた約束を夜空にずっと光らせておく

たにゆめ杯4(2023年)応募選外作 推定微罪 十首

カーテンに透ける朝陽を滅亡のフィルターにして微笑む微罪

青空がバックネットを突き抜けて教室に来るまであと二分

五線譜に一度捕らえた鳥たちを英語ノートへ貼り付けていく

街角の悪意を拾い私書箱へ届けるだけの課外活動

カフェオレに過度な甘さを感じつつ進路希望に伏線を張る

讃美歌を着信音にした姉の無言電話に折り返さない

赦します ただそれだけをしたためた喪中葉書を紛れ込ませる

どの国で何に使うか聞きもせず作って納品したプラカード

留置所に備え置かれた砂時計わたしのせいで数秒狂う

守られることなく消えた約束を夜空にずっと光らせておく

以上

大晦日108首チャレンジ2023 完走報告

はじめに

準備については、だいたい前回のブログに書いた通りです。

12×9=108

 家にあった12人の歌集から一首ずつを選び、その世界観で九首ずつ短歌を作っていきます。その際、せっかく12首を引いてくるのでそれぞれを1月から12月に割り当て歌を作る手がかりにします。割り当ては「歌集」を本棚から取り出してきた順番。短歌は、それぞれの月に会いそうなものを選んでみました。
 前回のブログに書きながら準備が間に合わなかったのは「マンダラート」によるワード収集でした。時間もなく、出てくる言葉が似通いすぎてきているので、発想法については考え直す時期かもしれません。
 変わりに、各月のテーマとなる短歌のイメージを決めて、それを作歌の手がかりとしました。(以下の【】で囲んだのがそれです)

たにゆめ杯4の報告

 12月30日に「たにゆめ杯4」の結果発表があり、選外となりました。入賞作を読んでみて「連作」であることの意味を、きちんとつきつめなければと思いました。

 
 今回の108首の場合も、同一テーマの短歌を並べただけなので「連作」とは言えないものです。一首一首で成立し、かつ流れの上で緩急をつけ、全体として「世界観」を提出できなければ「連作」ではない。と今はこの程度の理解です。2024年からの課題となると思いますが、今は、「連作」は無理かもな、というのが正直なところです。わたしはストーリーが苦手なので、そういう流れを断ち切りたくなってしまうのです。
 時系列ではなく群像劇的な「連作」が可能であれば、そういう方向を目指したいと思っています。(たにゆめ杯4への参加作品につきましてはまた)

#大晦日108首チャレンジ2023

2023年12月31日 午前0:14-午後0:41(※色付の歌は気に入った短歌です)

1月 『一握の砂・悲しき玩具』 石川啄木
≪あたらしき心もとめて/名も知らぬ/街など今日もさまよひて来ぬ≫ 【漂白】

001.なにもかも忘れればいい実家にも開けたことない引き出しがある

002.バス停にバスが居たから乗っただけ 生理学的反応でしょう

003.現金と覚悟は少しポケットに下着みたいなエコバック所持

004.今買える往復切符に本日の世界の果てを決めてもらおう

005.有形の命の重さヒーターの壊れたバスのお尻が熱い

006.自動改札機をワープする切符から失われてゆく信仰

007.ショッピングモールの駐車場だけの青空とその青空の嘘

008.落書きのように書かれたこの街の掟は全て錆びてしまって

009.ただいまパキラ ただいま冷蔵庫の卵 ただいま何も変わらない人類

2月 『寺山修司青春歌集』 寺山修司
≪日あたりし非常口にて一本の釘を拾いぬ誰にも言わじ≫ 【啓示】

010.学校の池の魔物は十年に一度自転車の鍵を呑む

011.知っていた? 実習棟の西側の防火扉はいつでも熱い

012.「天国に一番近いドア」という落書きを毎日消す係

013.神よ、ビル風に吹かれて飛ぶかつてビニール傘だった概念よ

014.スクランブル交差点なら出目金を横抱きのまま掬ってあげる

015.すごく光るけどありふれていて神様がそこにいるからズル休みする

016.人形と同じ名前のイマジナリーフレンドと同じ名前のわたし

017.言えないようなことをしようよ法律も詩も哲学もはみ出すような

018.へえこれが五寸釘なのシロナガスクジラと同じサイズ感だね

3月 『ラインマーカーズ』 穂村弘
≪サバンナの象のうんこよ聞いてくれだるいせつないこわいさみしい≫ 【誤魔化し】

019.終電を乗り越してくる酔っ払いのためにルーベンスの絵を飾る

020.結婚を卒業したという風の便りの消印は二年前

021.「ご通行中の皆様ご一緒に、小さな悩みを育てませんか?」

023.文机の隠し扉の鍵付きのヤツは読まれてもいい日記

024.コードレスイヤホンからは心臓の音だけがして今日も幸せ

025.近頃はサランラップに手がかりを残す空き巣と一緒にいます

026.二回目のデートでキリンのどこが好き?なんて聞くのね見直しちゃった

027.恋愛か妄想かって聞かれてもバナナが好きなあなたが好きよ

4月 『七月の心臓(抄)』兵庫ユカ
≪青いのは苦手だけれど思い出の糊代として空を残した≫ 【祈り】

028.制服の内ポケットで昨晩のスペースデブリのかけらが熱い

029.駅前で花占いを繰り返し葉っぱばかりの花束だった

030.告白を断られたら屋上にある首塚を訪れなさい

031.お別れのチェキの余白に「さよなら」と書いて「またね」は書かずに返す

032.湧き水の噂を聞いて杣道をゆけば古びたオルガンに着く

033.夜が明ける前が一番寒いってオタマジャクシが熱弁してる

034.春空に花粉が舞えばケセラセラケセラセラって許してしまう

035.最後だといえばたくさん来てくれる地球最後の日はUFOが

036.楽団の休憩中にフルートが義務を離れての風に鳴る音

5月 『百年後 嵐のように恋がしたいとあなたは言い 実際嵐になった すべてがこわれわたしたちはそれを見た』 野村日魚子
≪殺されて死ぬのだけはいや何万もの架空のみずうみとその火事≫ 【ビジョン】

037.いい季節 野良犬は乾いているし本当の夏はまだ少し先

038.暑いねと渚に足を濡らしても心まではまだ踏み込ませない

039.簡単ねBGMの波音に負けて渚と名付けるなんて

040.見たことのない湖を想像しルート検索してから眠る

041.野良猫がきれいな町の図書館のエリック・クラプトンのCD

042.高架橋とアンダーパスを繰り返し世界の裾をまつり縫いする

043.生贄を屠る祭壇かのようにジャングルジムは真東を向く

044.あかちゃんができたみたいに歩くから梅雨の季節は無口になるね

045.ぐしゃぐしゃのビニール傘に祝福をガードレールに絆創膏を

6月 『チョコレート革命』 俵万智
≪別れ話を抱えて君に会いにゆくこんな日も吾は「晴れ女」なり≫ 【自虐】

046.住所不定無色は色が無い無色あなたのものにしてくださいな

047.天気予報半日ずれて雨晴れて濡れた砂丘に亀を見に行く

048.真夜中にギターを弾いて怒られてギターを弾いてまた怒られる

049.雨ならば雨女だし晴ならば晴女です曇りは休み

050.「会いたい」という言葉には「わたしも」と送り返せば済む日曜日

051.「ドライフラワーキレイですね」とキラキラの後輩クンは切り花みたい

052.クリスマスから正月にかけバイトシフトを増やすわたしの「年末調整」

053.長梅雨はため息交じりリフレッシュできなくもない土日の予定

054.自分では解けなくていい知恵の輪にゆるく護られながら生きてる

7月 『イマジナシオン』 toron*
≪風を編む手つきできみがこれまでに鳴らした楽器を教えてくれる≫ 【カミングアウト】

055.コーヒーに砂糖はいくつかと聞かれコーヒーって何?と聞けずに溶ける

056.検索をすればだいたいバレるから二か月ごとに名前を変える

057.裏庭を時々走る雉の雄あれがあなたのミッシングリンク

058.経験を積めばわかるよ隠し事しているときにラッキョウは駄目

059.蹄鉄を見慣れた人に見せたとき小さいねって思ってる顔

060.夏なのでノースリーブを着るように秘密を一つ解き放ちます

061.浮遊霊なら1自縛霊なら9生霊ならば♯7を

062.夏の夜のお墓や学校以外でも肝試しなら毎日してる

063.吹き渡る風が奏でる吊り橋の旋律がみな短調なこと

064.せせらぎで冷やされている西瓜にも西瓜太郎がいる世界線

8月 『風のアンダースタディ』 鈴木美紀子
車いす押して海辺を歩きたい記憶喪失のあなたを乗せて≫ 【呪い】

065.忘れることは怖くないけど怖くないことを忘れることが怖いの

066.彼岸花を増やしています堤防は葬列のためだけの道です

067.十分に駄目になったら実家まで訪ねてきてね留守がちだけど

068.経由地に遮断機の無い踏切を多めに選ぶ運命論者

069.この夏もカーブミラーに映らない地蔵が塞ぐ焼き場への道

070.夢にみる坂道がある繰り返し何か手放す感触もある

071.水際まで向かう裸足の足跡の最後の一つがとっても浅い

072.来年もまた来るからと手を振れど振り返す人だになき故郷

9月 『アーの」ようなカー』 寺井奈緒
≪つなぎ目の向こうの車両のひとたちが少しズレつつ揺れている朝≫ 【違和感】

073.電柱の間隔が狭まっていく地球を広くみせるトリック

074.昨日まではちょうちょが嫌い今朝からはキャベツが嫌いという成長期

075.ペアリングが切れそうになりさまざまな角度を試す心と身体

076.吸盤でつける床屋のカレンダー定休日には必ず落ちる

077.信号に差し掛かるたび黄色から赤になるのでパプリカと呼ぶ

078.住む人がもうなくなった実家にも喪中はがきは毎年届く

079.絶対に背中に羽が生えてきた感じでラジオ体操をする

080.本家にて猟銃免許をもつ伯父に何か撃たせてもらった記憶

081.付き合っていた人が棲む病院の簡易ベッドの軋んだ夜更け

10月 『馬場あき子全集 第2巻 歌集②』 馬場あき子
≪柿の木に梯子をかけし朝より杉やけやきの孤独は深し≫ 【愁い】

082.放課後の日暮れが早い缶蹴りの鬼を抜けられないまま寒い

083.柿の木を次々伐って工場を建てた実家に柿を送りぬ

084.両親を早く亡くして子もおらず狭い世界を静かに作る

085.ペアリング済んでないのにどこやらのホラー映画の音が聞こえる

086.五億円あれば憂いもなく暮らす五千万円なんていらない

087.何事も中途半端が仇となる永代供養までが遠足

088.涙にも嘘と本当があるらしくAサンブルとBサンプルで

089.ナマ中はそろそろやめてジャズにするオスカーピーターソンをロックで

090.たくさんの人が死んでも続いてく世界にあまり未練はなくて

11月 『北原白秋 集より 桐の花』
≪霊(たましひ)の薄き瞳を見るごとし時雨の朝の小さき自鳴鐘(めざまし)≫ 【ささめき】

091.iPad一枚壊れランダムにアラーム鳴らす年末年始

092.明け方にそっと布団を捲ってはカマキリの子が謝ってくる

093.占い師ふらり立ち寄りこの家に猫がいますねなどと言ひたり

094.雪として降ってきたのに雪のまま着地できずに舌打ちしてる

095.ひまわりを覚えているかあの夏と共に殺したひまわりたちを

096.ヌートリア通報係を拝命し着ぐるみ用の採寸をする

097.いつどこで誰と飲んだか忘れてる人生初の生グァバジュース

098.久々に32bitパソコンでDVDをギュリギュリと焼く

099.ゆく川の水の流れは絶えずしてへその緒を持つ最後の世代

12月 『ピクニック』 宇都宮敦
≪耳が鳴るくらいのさびしさをあげる 雪はとおくの街で降ってる≫ 【別れ】

100.12年ぶりに箱から取り出せば意外に長い辰の人形

101.全員が固定電話で済ませてた時代とあまり変わらない夢

102.わかるけど嫌なんですよアマゾンの箱によく似た笑い方とか

103.日曜の夜のホームで生き別れ金曜の夜に再び出会う

104.白菜とお餅があれば一週間程度は生きていられる身体

105.真夜中に氏子総代馬に乗りお山の池が凍ったと告ぐ

106.正月の三連戦に一房のバナナが一軍登録される

107.年越しのたびに捨て去るものがあるしだいに軽くしていくための

108.雪さえもめったに降らぬこの土地の冬はみかんとこたつの季節

以上

おわりに

 というわけで、今年も無事完走できました。後半、ねばりが足りなくなってきたきらいはありますが、ともかく108首作るのが目的です、よしとします。
 2023年はとくに、好きな短歌が作れず困りました。世界とのかかわりの中に「短歌」が足りなかったせいだと思っています。
 2024年は、少しでも好きな短歌が作れるようになりたいと思います。
それではみなさま、よいお年をお迎えください。

大晦日108首チャレンジ2023 にむけて

Xになって初

 過去3回はtwitterでチャレンジしてきた大晦日の風物詩。
4度目となる今回はXとなって、この先いつまで続けられるのかなどと危惧しながらの挑戦になります。こうした発表と交流の場があるのがどれほど素敵なことかと感謝しつつ、精一杯取り組みたいと思います。

12×9=108

 徒手空拳では完走はおぼつかないということで、毎回の仕込みを行っています。
 一回目は「煩悩の定義」二回目は「今年の手帳」三回目は「マンダラートで言語セット」そして今年は、家にあった12人の歌集から一首ずつを選び、その世界観で九首ずつ短歌を作っていくことにしました。
 その際、せっかく12首を引いてくるのでそれぞれを1月から12月に割り当て歌を作る手がかりにします。
 割り当ては、以下の歌集を本棚から取り出してきた順番で、それぞれの月に合いそうそうな歌を選んでみました。

セレクション

 1月 『一握の砂・悲しき玩具』 石川啄木
    あたらしき心もとめて/名も知らぬ/街など今日もさまよひて来ぬ

 2月 『寺山修司青春歌集』 寺山修司
    日あたりし非常口にて一本の釘を拾いぬ誰にも言わじ

 3月 『ラインマーカーズ』 穂村弘
    サバンナの象のうんこよ聞いてくれだるいせつないこわいさみしい

 4月 『七月の心臓(抄)』兵庫ユカ
    青いのは苦手だけれど思い出の糊代として空を残した

 5月 『百年後 嵐のように恋がしたいとあなたは言い 実際嵐になった すべてがこわれわたしたちはそれを見た』 野村日魚子
    殺されて死ぬのだけはいや何万もの架空のみずうみとその火事

 6月 『チョコレート革命』 俵万智
    別れ話を抱えて君に会いにゆくこんな日も吾は「晴れ女」なり

 7月 『イマジナシオン』 toron*
    風を編む手つきできみがこれまでに鳴らした楽器を教えてくれる

 8月 『風のアンダースタディ』 鈴木美紀子
    車いす押して海辺を歩きたい記憶喪失のあなたを乗せて

 9月 『アーの」ようなカー』 寺井奈緒
    つなぎ目の向こうの車両のひとたちが少しズレつつ揺れている朝

10月 『馬場あき子全集 第2巻 歌集②』 馬場あき子
    柿の木に梯子をかけし朝より杉やけやきの孤独は深し

11月 『北原白秋 集より 桐の花』
    霊(たましひ)の薄き瞳を見るごとし時雨の朝の小さき自鳴鐘(めざまし)

12月 『ピクニック』 宇都宮敦
    耳が鳴るくらいのさびしさをあげる 雪はとおくの街で降ってる

おわりに

 さらに、大晦日までに、もう少し手がかりを増やしておくために、これらの短歌からワードを抜き出して、マンダラートも活用したいと考えています。
当日は、カウントダウン短歌もありますし、今からとても楽しみです。
それでは。

郵便ポストになる屍(短歌二十首連作)

少し前に作って「カクヨム」に載せてた短歌連作を、こちらに再掲載いたしました。

例によって、「マンダラート」と「マインドマップ」を使ったものです。

 

郵便ポストになる屍(短歌二十首連作)

 

 1.蟻の巣の小さな穴に差し込んだ舌先のそれは澱んだ水です

 

 2.頭痛が頭皮の痛みなら脳みそを掻き出すまでもないね希望は

 

 3.脱衣所の地下に羊水だけで育った雷魚がいてそれがおいしい

 

 4.信じられる? こんな路肩で溺死した老人がいてその人の歌碑

 

 5.歩道橋が盗まれた町のジョナサンで君と夜明けの声で論じた

 

 6.住所を求めスカートの下に潜り込みたがるな本籍地はその下だ

 

 7.カミキリムシが飛んでくるからもう終わりポストも伐採されてしまった

 

 8.幻の鳥が幻の卵を抱いているスーパーの屋上を見ずに浅瀬においで

 

 9.痒いのが嫌だったから国道まで降りてきたのに天使だなんて

 

10.石を投げるとき持ちやすい石を選んで投げていた自分が夕焼より大嫌い

 

11.本気? ブーメランで月を毀すつもり ならわたしは綿菓子に住む

 

12.この手紙は貨物列車に永遠に轢かれてる人だけに送ろう

 

13.図書館の閉架を墓にできないか相談できる人になりたい

 

14.焼くのは嫌! 巣ごと丸呑みした蜂のDNAは有効だから

 

15.お坊さんお経と落語の違いとかどーでもいいよ輪廻しようよ

 

16.悪いことしたら地獄に落ちるけど地獄に落ちるのは悪いこと?

 

17.言葉でじゃなく生き方で伝えてくるバイブレーションがくすぐったくて

 

18.脚だけで郵便ポストってわかったけど本当に不幸なのは脚があること

 

19.水に浮く骨をあつめて平和とかお金持ちとか書いて流そう

 

20.ボトルメール即身仏に狂わない目覚まし時計を仕込んで眠る

 

屋上獏部 12~16

はじめに

千原こはぎ様による隔月発行の短歌誌「うたそら」へ投稿をつづけている「屋上獏部」。

kohagiuta.com

  毎回、八首連作の規定に沿って八首ずつ作り続け、11月発行予定の「うたそら17」投稿分までで、136首となりました。

 これまで、このブログに11まで転載してきましたが、しばらく間が空きましたのでここでまとめて12~16までをまとめておこうと思います。

屋上獏部12

指先の乱数表が指し示すオオアリクイの反逆の歌

ちっぽけな惣菜食べた口笛の影絵でつくれ迷宮回廊

避雷針鞭打つヴァニラ鉱物の結晶キック奇妙な神話

白い襟胎児の頭部にある寝癖ペーパーウェイト冷たい泉

片思イ受胎感覚輪唱ス潜水艦ニ似タ猫目石

片方の乳房は死後の月めいて寒いホームに南洋の夢

無意識が耳たぶを卵焼きにするジャン・コクトーは靴のつま先

光るもの海のけだもの群れるもの発声練習するかたつむり

屋上獏部13

針金の動く歩道を避けてゆくのっぺらぼうの卒業証書

風沈むダムに起立と着席を投げ棄てにゆく夕焼け小焼け

手摺から舟を押し出す匙加減人差し指の指紋がきれい

繭吊るすブーケとともに落下したペットボトルは夢の防人

長閑な犀 桜の古いサブスクはひょうたん池に沈んだ迷路

金髪の教師が花嫁衣裳着てキングの馬を慰める意図

蟻の巣に「元気ですか」と呼び掛ける薄墨色の廊下は満ちて

はりぼての卵をなくし角笛が吹けるふりしたさよならの後

屋上獏部14

昼休みチョークで描いた空にまで瞼があるの嫌になっちゃう

ゴールへと渇く地面をひた走るバスに揺られる眠たい地獄

ひび割れを直線距離に直すのが苦手ね空腹のキューピッド

うっすらと透けそうだった喉仏ロボットたちが殺し合う駅

潜水艦行きトロッコで着ぐるみを脱ぐのに肘とペディキュアが邪魔

トンネルに隠蔽された別荘の母性をつかさどるはずの首

席替えのパラドックスにうなだれる産毛のうなじがもたらすカルマ

本当はバクではなくて世界史に出てくる花に巣食う這うもの

屋上獏部15

ボール紙細工の蟻がひっそりと器械体操する複葉機

ジーッという極彩色のレンズ豆中で無数の計器の光る

半ズボン白い靴下骨格がハニカムならば鳥に似ている

銀輪に拘束された六月の夜の正体は万有引力

お月さま点いたり消えたりおこりんぼでこぼこ三角穴から見える

じゅらるみんぷろぺらほいーるらじえーたーぺだるじおらまかったーないふ

消えていく存在こそがセスナ機のげらげら笑う翼の中身

贋物の獏が都会をよぎるから吐息も涙も菫色かよ

屋上獏部16

ホームラン日影のベンチ梨畑中庭の池朝の食卓

重力圏登って下りるだけの靴入口だけは無数にあった

音速の壁を破って飛んでいく選考基準を満たさぬ日傘

ブランコを埋めてしまった微動だにしない言葉を道連れにして

タイムオブデス一人ずつ目が回るスピードだけを抜き取る施術

生きてます 蜘蛛の糸かと思ったら竜巻でした でも生きてます

その後は枕の中で暮らしますすべての道が帰路のカーナビ

太陽とクマの形の氷かき来世も同じ名前で生きる

おわりに

「屋上獏部」では、夢と現実のメタモルフォーゼがテーマでもあり、加えて、この部活が行われている高校生活、部員の二人(先輩と後輩)とその友人たち、そして顧問などの日々や思いを描いていけたらと思っています。

始めは百首くらい溜まったところで何かにまとめてみたいと思っていましたが、どうせなら、千首くらい溜まったところで推敲してまとめられたら、何か「世界観」が見えてくるかも、なんて夢をもっています。

その日が楽しみです。

それでは。

CD短歌夏フェス2023―sideB 自作ライナーノーツ

前回に引き続き、CD短歌夏フェス2023関連ブログです。
前回のsideAでは、好きな短歌レビューをおこないましたので、 今回はsideBとしてわたしの短歌について書きたいと思います。
今回の短歌も、マンダラシートとMindomoというアプリを用いて作成しています。 play.google.com

play.google.com

なぜ、この方法で作っているのか。それはこちらのブログで。

 

usodamiyako.hatenablog.com

それではライナーノーツを始めます。

0.セトリ

セトリ

まずは真ん中に「夏」を入れ、そこから連想する言葉を周囲に八個書き入れます。そして、その八個のそれぞれを真ん中に配して、そこから連想される(または全く無関係に思いついた)言葉を八個並べていったものをセトリとします。そしてそれぞれの真ん中のワードをタイトルとした短歌を八首と、グランドフィナーレ用のもの一首を作りました。

1.アンクレット

ゴールドのアンクレットを引きちぎるアキレス腱とくるぶしギャルズ

いつもはセトリ全区画から適当にワードを選んでいましたが、今回は敢えてタイトルワードの周りの八個の区画のみから言葉を選んでみました。そのため一首に用いられる言葉が全体的に、いわゆる「つきすぎ」になり、短歌的飛躍の可能性が乏しくなるかもと思われましたが、「敢えて」ということで。

この短歌では結句の「ギャルズ」を思いついたところが収穫でした。アキレス腱と踝を砂丘にメキメキと見せつけつつ歩く女の子に夏を感じていただければ。

2.夜

睦会う夜を蠢く密やかな魔法重ねる紛れる隠す

この区画は動詞が多すぎてとても困りました。その結果、動詞の羅列となったわけですが、「睦会う」というひめゴトに「蠢く」と「魔法」がもたらす暗がりを、動詞の相乗効果で表せたらいいなと思いました。

3.波

闇雲に回転させる引き波のアンダーライン数えそびれて

できているようでできていない短歌。「闇雲に回転させている」のが何なのかが書かれていないのです。たとえばそれはペン回しのペンであるかもしれず、人々の営みとは無関係に自転公転する地球かもしれません。ワードを限定することで苦肉の策としてなんとか意味が通りそうなギリギリのラインで着地できたかなと思います。ですが、引き波とアンダーラインは連想としてつきすぎですね。

4.日焼け跡

日焼け跡バタークリームみたいだねゴーグル・リングの跡・クロックス

置きに行った感のある短歌です。「日焼け跡」から連想されたバタークリームが強すぎて、日焼け後って焼けてない部分があってこそなので、やはりその普段隠されている部分のある意味で不健全な白さを際立たせたいと思いましたが、下の句は凡庸を抜け出せませんでした。

5.蝉

蝉という夏を分解する機械鳴いているのは蝉じゃない 夏

中央のワードは「蝉の声」でしたが「蝉」にしています。この区画のワードはみな「句」を形成しており、文字数に気を付けて並べなおすだけでよい、はずなのですが、マンダラートを埋める段階で音数には気を使わないので、そのままではうまくはまらない。結局、結句が最後まできまらず、この区画にはない「夏」を一文字開けで配置して、形を作りました。ところで、蝉が夏を分解する装置だというモチーフは気に入っていていろいろなところで使っています。

6.追憶

違う夢蜻蛉の如く押し寄せる陽炎を喪失した追憶

マンダラートに記入するワードは、この区画のような単語にすることが多いです。この問題点は、「体言止めになりやすい」ところです。ただでさえわたしは体言止めが好きなので、なるべくそうしないように気を付けているのですが、それでも手癖というか、体言止めだと落ち着くところがあってつい流れてしまいます。結句の「物」に収れんしてしまい、短歌が小さくなってしまうのも、わたしが下手だからです。そんな中でも、この短歌は意味不明さによる意味ありげ感がわりと好きです。

7.はだける

シャツのボタン海に向かえば無意識に三つはだけて鎖骨に受ける

こちらは、mindomoで作った後で推敲が入って画像と発表短歌とが違っています。作り方を決めるといっても、別にそれを遵守しなければならないというわけでもなく、この画像の状態からメモ帳などへ書き写しながら、どんどん変更して好きな短歌に近づければいいわけです。おそらく画像のままでは字余りが生じて、それが気になったのだと思います。ただ、発表した短歌の語順は、かなり変則的で、そこが冒険というところでしょうか。

8.灼熱

灼熱の日射しを知らぬ影置いてレンズに蒸発してゆく裸足

この歌もかなり改変しています。下の句はそのままなのですが、上の句は真逆といってもいい感じです。発表短歌の方が作中の主体がブレないのではないかと思います。


これが八首めでした。アキレス腱と踝をあらわにしたギャルズが裸足で消えていくところまで、というイメージで「夏」を歌ってみた、というところでしょうか。(これは今、気づいたのですが)

9.グランドフィナーレ

短歌フェスアンクレットの日焼け跡晩夏の夜の灼熱の波

グランドフィナーレに流した歌です。これまでの各短歌の真ん中のワードをすべて入れ込んで、短歌フェスそのものを歌いたいと思いました。なので、「蝉の声」を「短歌フェス」と入れ替え、「真夏」を「晩夏」にしています。

短歌もまた蝉の声のように、この世界を分解する装置なのではないか、とそんな裏テーマも今、思いついたところです。わたしたちは限られた命の時間を費やして、なぜ、これほどまでに短歌を作りたいのか。この設問に、わたしはあえて答えたいとは思わないのですが、ただこの設問そのものが短歌を作る原動力の一つになるのかもしれないな、なんて思いました。

ボランティアについて

今回、21:30~22:20まで、リツイートボランティアとして参加しました。運営に少しだけでもかかわれると、格別にこのイベントが身近で愛おしく感じられます。
当日はなぜか、ネットの調子が悪く、検索が全くできなくなったり、途中でルーターを再起動したり、バタバタと部屋を走り回ったりもしましたが、なんとか無事に務められたようで、ホっとしています。次回もぜひお手伝いしたいと思います。

以上です。次回は、年末カウントダウン でしょうか。楽しみに待っています。