宇祖田都子の短歌の話

森羅万象を三十一音に

屋上獏部 12~16

はじめに

千原こはぎ様による隔月発行の短歌誌「うたそら」へ投稿をつづけている「屋上獏部」。

kohagiuta.com

  毎回、八首連作の規定に沿って八首ずつ作り続け、11月発行予定の「うたそら17」投稿分までで、136首となりました。

 これまで、このブログに11まで転載してきましたが、しばらく間が空きましたのでここでまとめて12~16までをまとめておこうと思います。

屋上獏部12

指先の乱数表が指し示すオオアリクイの反逆の歌

ちっぽけな惣菜食べた口笛の影絵でつくれ迷宮回廊

避雷針鞭打つヴァニラ鉱物の結晶キック奇妙な神話

白い襟胎児の頭部にある寝癖ペーパーウェイト冷たい泉

片思イ受胎感覚輪唱ス潜水艦ニ似タ猫目石

片方の乳房は死後の月めいて寒いホームに南洋の夢

無意識が耳たぶを卵焼きにするジャン・コクトーは靴のつま先

光るもの海のけだもの群れるもの発声練習するかたつむり

屋上獏部13

針金の動く歩道を避けてゆくのっぺらぼうの卒業証書

風沈むダムに起立と着席を投げ棄てにゆく夕焼け小焼け

手摺から舟を押し出す匙加減人差し指の指紋がきれい

繭吊るすブーケとともに落下したペットボトルは夢の防人

長閑な犀 桜の古いサブスクはひょうたん池に沈んだ迷路

金髪の教師が花嫁衣裳着てキングの馬を慰める意図

蟻の巣に「元気ですか」と呼び掛ける薄墨色の廊下は満ちて

はりぼての卵をなくし角笛が吹けるふりしたさよならの後

屋上獏部14

昼休みチョークで描いた空にまで瞼があるの嫌になっちゃう

ゴールへと渇く地面をひた走るバスに揺られる眠たい地獄

ひび割れを直線距離に直すのが苦手ね空腹のキューピッド

うっすらと透けそうだった喉仏ロボットたちが殺し合う駅

潜水艦行きトロッコで着ぐるみを脱ぐのに肘とペディキュアが邪魔

トンネルに隠蔽された別荘の母性をつかさどるはずの首

席替えのパラドックスにうなだれる産毛のうなじがもたらすカルマ

本当はバクではなくて世界史に出てくる花に巣食う這うもの

屋上獏部15

ボール紙細工の蟻がひっそりと器械体操する複葉機

ジーッという極彩色のレンズ豆中で無数の計器の光る

半ズボン白い靴下骨格がハニカムならば鳥に似ている

銀輪に拘束された六月の夜の正体は万有引力

お月さま点いたり消えたりおこりんぼでこぼこ三角穴から見える

じゅらるみんぷろぺらほいーるらじえーたーぺだるじおらまかったーないふ

消えていく存在こそがセスナ機のげらげら笑う翼の中身

贋物の獏が都会をよぎるから吐息も涙も菫色かよ

屋上獏部16

ホームラン日影のベンチ梨畑中庭の池朝の食卓

重力圏登って下りるだけの靴入口だけは無数にあった

音速の壁を破って飛んでいく選考基準を満たさぬ日傘

ブランコを埋めてしまった微動だにしない言葉を道連れにして

タイムオブデス一人ずつ目が回るスピードだけを抜き取る施術

生きてます 蜘蛛の糸かと思ったら竜巻でした でも生きてます

その後は枕の中で暮らしますすべての道が帰路のカーナビ

太陽とクマの形の氷かき来世も同じ名前で生きる

おわりに

「屋上獏部」では、夢と現実のメタモルフォーゼがテーマでもあり、加えて、この部活が行われている高校生活、部員の二人(先輩と後輩)とその友人たち、そして顧問などの日々や思いを描いていけたらと思っています。

始めは百首くらい溜まったところで何かにまとめてみたいと思っていましたが、どうせなら、千首くらい溜まったところで推敲してまとめられたら、何か「世界観」が見えてくるかも、なんて夢をもっています。

その日が楽しみです。

それでは。