宇祖田都子の短歌の話

森羅万象を三十一音に

CD短歌夏フェス2023―sideB 自作ライナーノーツ

前回に引き続き、CD短歌夏フェス2023関連ブログです。
前回のsideAでは、好きな短歌レビューをおこないましたので、 今回はsideBとしてわたしの短歌について書きたいと思います。
今回の短歌も、マンダラシートとMindomoというアプリを用いて作成しています。 play.google.com

play.google.com

なぜ、この方法で作っているのか。それはこちらのブログで。

 

usodamiyako.hatenablog.com

それではライナーノーツを始めます。

0.セトリ

セトリ

まずは真ん中に「夏」を入れ、そこから連想する言葉を周囲に八個書き入れます。そして、その八個のそれぞれを真ん中に配して、そこから連想される(または全く無関係に思いついた)言葉を八個並べていったものをセトリとします。そしてそれぞれの真ん中のワードをタイトルとした短歌を八首と、グランドフィナーレ用のもの一首を作りました。

1.アンクレット

ゴールドのアンクレットを引きちぎるアキレス腱とくるぶしギャルズ

いつもはセトリ全区画から適当にワードを選んでいましたが、今回は敢えてタイトルワードの周りの八個の区画のみから言葉を選んでみました。そのため一首に用いられる言葉が全体的に、いわゆる「つきすぎ」になり、短歌的飛躍の可能性が乏しくなるかもと思われましたが、「敢えて」ということで。

この短歌では結句の「ギャルズ」を思いついたところが収穫でした。アキレス腱と踝を砂丘にメキメキと見せつけつつ歩く女の子に夏を感じていただければ。

2.夜

睦会う夜を蠢く密やかな魔法重ねる紛れる隠す

この区画は動詞が多すぎてとても困りました。その結果、動詞の羅列となったわけですが、「睦会う」というひめゴトに「蠢く」と「魔法」がもたらす暗がりを、動詞の相乗効果で表せたらいいなと思いました。

3.波

闇雲に回転させる引き波のアンダーライン数えそびれて

できているようでできていない短歌。「闇雲に回転させている」のが何なのかが書かれていないのです。たとえばそれはペン回しのペンであるかもしれず、人々の営みとは無関係に自転公転する地球かもしれません。ワードを限定することで苦肉の策としてなんとか意味が通りそうなギリギリのラインで着地できたかなと思います。ですが、引き波とアンダーラインは連想としてつきすぎですね。

4.日焼け跡

日焼け跡バタークリームみたいだねゴーグル・リングの跡・クロックス

置きに行った感のある短歌です。「日焼け跡」から連想されたバタークリームが強すぎて、日焼け後って焼けてない部分があってこそなので、やはりその普段隠されている部分のある意味で不健全な白さを際立たせたいと思いましたが、下の句は凡庸を抜け出せませんでした。

5.蝉

蝉という夏を分解する機械鳴いているのは蝉じゃない 夏

中央のワードは「蝉の声」でしたが「蝉」にしています。この区画のワードはみな「句」を形成しており、文字数に気を付けて並べなおすだけでよい、はずなのですが、マンダラートを埋める段階で音数には気を使わないので、そのままではうまくはまらない。結局、結句が最後まできまらず、この区画にはない「夏」を一文字開けで配置して、形を作りました。ところで、蝉が夏を分解する装置だというモチーフは気に入っていていろいろなところで使っています。

6.追憶

違う夢蜻蛉の如く押し寄せる陽炎を喪失した追憶

マンダラートに記入するワードは、この区画のような単語にすることが多いです。この問題点は、「体言止めになりやすい」ところです。ただでさえわたしは体言止めが好きなので、なるべくそうしないように気を付けているのですが、それでも手癖というか、体言止めだと落ち着くところがあってつい流れてしまいます。結句の「物」に収れんしてしまい、短歌が小さくなってしまうのも、わたしが下手だからです。そんな中でも、この短歌は意味不明さによる意味ありげ感がわりと好きです。

7.はだける

シャツのボタン海に向かえば無意識に三つはだけて鎖骨に受ける

こちらは、mindomoで作った後で推敲が入って画像と発表短歌とが違っています。作り方を決めるといっても、別にそれを遵守しなければならないというわけでもなく、この画像の状態からメモ帳などへ書き写しながら、どんどん変更して好きな短歌に近づければいいわけです。おそらく画像のままでは字余りが生じて、それが気になったのだと思います。ただ、発表した短歌の語順は、かなり変則的で、そこが冒険というところでしょうか。

8.灼熱

灼熱の日射しを知らぬ影置いてレンズに蒸発してゆく裸足

この歌もかなり改変しています。下の句はそのままなのですが、上の句は真逆といってもいい感じです。発表短歌の方が作中の主体がブレないのではないかと思います。


これが八首めでした。アキレス腱と踝をあらわにしたギャルズが裸足で消えていくところまで、というイメージで「夏」を歌ってみた、というところでしょうか。(これは今、気づいたのですが)

9.グランドフィナーレ

短歌フェスアンクレットの日焼け跡晩夏の夜の灼熱の波

グランドフィナーレに流した歌です。これまでの各短歌の真ん中のワードをすべて入れ込んで、短歌フェスそのものを歌いたいと思いました。なので、「蝉の声」を「短歌フェス」と入れ替え、「真夏」を「晩夏」にしています。

短歌もまた蝉の声のように、この世界を分解する装置なのではないか、とそんな裏テーマも今、思いついたところです。わたしたちは限られた命の時間を費やして、なぜ、これほどまでに短歌を作りたいのか。この設問に、わたしはあえて答えたいとは思わないのですが、ただこの設問そのものが短歌を作る原動力の一つになるのかもしれないな、なんて思いました。

ボランティアについて

今回、21:30~22:20まで、リツイートボランティアとして参加しました。運営に少しだけでもかかわれると、格別にこのイベントが身近で愛おしく感じられます。
当日はなぜか、ネットの調子が悪く、検索が全くできなくなったり、途中でルーターを再起動したり、バタバタと部屋を走り回ったりもしましたが、なんとか無事に務められたようで、ホっとしています。次回もぜひお手伝いしたいと思います。

以上です。次回は、年末カウントダウン でしょうか。楽しみに待っています。