宇祖田都子の短歌の話

森羅万象を三十一音に

「#2023年自作短歌五首を呟く」と「2023年自作短歌拾遺」

はじめに

#2023年の自選五首を呟く をやってみました。

その中での気づいたのは、「自分がどんな短歌が作りたいのかを考える余地があるということは、たぶんまだ、ちゃんと短歌に取り組めていないのだろうな」ということです。わたしは悪い意味で「アルチザン」的な面があって、絵画も楽器も俳句も小説も、書いてみたいので練習はしますが、「これが表現したい」という熱情に薄いのが、そもそもいけないのだなと。いつか、そういう熱情がたぎった時に備えて、いろいろな表現方法に習熟したい。というおかしな情熱だけが、どうやらわたしにはあるみたいです。

だから、わたしの短歌はブレブレなのですね。

なので、1年間に作った短歌を自ら反芻して、「好きな声」を拾っておこうと思ったのです。そして今後それらをいくつかの声音に分類して、わたしがどんな短歌が好きなのかを知る手がかりにしようかと、こんなことをしています。

それではまずは「#2023年自作短歌五首を呟く」から。

#2023年自作短歌五首を呟く

1月26日 うたの日『 風 』 旅先で「円」を両替した国の通貨単位が「風」だったこと   3月27日 うたの日『 気球 』 2番線気球が通過いたしますそっと瞼を閉じてください   4月12日 うたの日『 空 』 「空はじめました」ののぼりはためかせ軽トラックが海から戻る   野良之コウモリさんの【一募一絵】vol.12 ジャンヌダルクなんて知らない従順な夏の亡者を率いて真冬   12月4日 うたの日『繋』 一本の黄色いヒモに大量の幼稚園児が繋がっている

#2023年自作短歌五首を呟く

1月26日 うたの日『 風 』
 旅先で「円」を両替した国の通貨単位が「風」だったこと

3月27日 うたの日『 気球 』
 2番線気球が通過いたしますそっと瞼を閉じてください

4月12日 うたの日『 空 』
 「空はじめました」ののぼりはためかせ軽トラックが海から戻る

野良之コウモリさんの【一募一絵】vol.12
 ジャンヌダルクなんて知らない従順な夏の亡者を率いて真冬

12月4日 うたの日『繋』
 一本の黄色いヒモに大量の幼稚園児が繋がっている

 

2023年自作短歌拾遺 (→は推敲です)

1月7日 #RIUMさんの初句
 この先は腕力だけが物を言う これは羽ばたくための筋肉

1月8日 RIUMさんの#連想短歌 #イラスト詠
 それぞれにボトルシップは出航し瓶は再び星屑になる → ふたたび

1月26日 『 風 』
 旅先で「円」を両替した国の通貨単位が「風」だったこと

2月5日
 家にある椅子の数だけ猫が居て猫の数だけ皿のある家


2月9日 『 鶏 』
 鶏が自由を謳歌する庭のそこここにある卵の温み

2月21日 『 ドロップキック 』 
 『るるぶ』にも『ことりっぷ』にも「名物はドロップキック」と書いてある島

2月23日 『 温 』
 温かな石をみつけて握りしめ冷たい石にする昼休み

2月28日 RIUMさんの#初句
 鮮明な2分5秒の動画から駱駝を消して曖昧にする

3月6日 RIUMさんの#初句
 春までに五階の部屋に引っ越して七階にいるあなたに迫る

3月6日 RIUMさんの#初句
 春までにあとどれくらいチラシ寿司? コーヒーカップなら何回転?

3月7日 木野喜久子さんの#上の句
 幻獣がホームに凛と立っている通勤定期の期限は切れて

3月7日 RIUMさんの#連想短歌 欲求
 YES/NOまくらが二つともYESふとん圧縮袋の中で

3月7日 木野喜久子さんの#上の句
 半額にしてもやっぱり売れ残る円周率の後ろ100桁

3月9日 木野喜久子さんの#上の句
 実はこれ半分日記なんですよもう半分は猫なんですが

3月11日
 白菜を使い切れずに捨てるとかそんな荒んだ十代でした


3月18日 RIUMさんの#初句
 途中から雨の音だけ聞いていた目覚めたときは一人がいいな

3月22日 『 遊 』
 遊園地好きじゃないから遊園地従業員になった それだけ

3月23日 RIUMさんの#連想短歌 「勝負」
 鏡より速く動ける元カレを追い抜いて行け東京無線

3月23日 RIUMさんの#連想短歌 #イラスト詠
 ガチャガチャに死んだ何かが入ってる脚がたくさんある何かの死

3月23日 『 私 』
 私書箱はザトウクジラの屍の歌を再生するオルガンに

3月27日 RIUMさんの#連想短歌 #イラスト詠
 ドラえもんの手足頭を取り外し真上から見た絵という答え

3月27日 RIUMさんの#連想短歌 #イラスト詠
 見たことのないおじさんのシャボン玉見たことのない壊れ方した

3月27日 『 気球 』
 2番線気球が通過いたしますそっと瞼を閉じてください

3月27日 RIUMさんの#初句
 春だから春の切符を差し出して少し乗り越すつもりで眠る

3月29日 RIUMさんの#連想短歌 #イラスト詠
 表札がチョコでできてる峰岸の家の二階に住みつく家族

3月30日 RIUMさんの#初句
 遠くまでお願いしますと言ったきり沈黙だけを運ぶタクシー

4月3日 RIUMさんの#連想短歌 データ
 こんばんわ症例Sはわたしです北京ダックが大嫌いです

4月10日 RIUMさんの#連想短歌 #イラスト詠
 こうすれば薄い紙でも立つんだね まだ読む気にはなれない手紙

4月11日 『 室 』
 あのそれは室内楽というもので外へ持ち出すのは禁止です →「」

4月12日 『 空 』
 「空はじめました」ののぼりはためかせ軽トラックが海から戻る

4月14日 RIUMさんの#初句
 あなたから始めた嘘がもたらした古いわたしのバージョンアップ

4月16日
 チェルシーが食べたくなって真夜中の環状線を地球へ向かう

4月16日
 唯一のパン屋のパンが売り切れて次のパンまでパン待ちの町

4月21日 RIUMさんの#連想短歌 別れ
 太陽系を出る瞬間の「ありがとう」一人でも言う「おやすみなさい」

4月26日 RIUMさんの#初句
 見えている自販機下の10円に手が届かない まるで月だね

4月26日 RIUMさんの#初句
 見えているけれど見えないフリをして下北沢の話などする

4月27日 RIUMさんの#連想短歌 他人
 わたしかもしれない人とすれ違い振り向いちゃった なんか悔しい

4月29日 RIUMさんの#連想短歌 #イラスト詠
 相続は破棄するけれどクレヨンはわたしのなまえがあるのでもらう

4月30日 RIUMさんの#初句
 もうこれで下井草には用がないだから東京にはもう来ない

4月30日 『 いやらしい 』
 いやらしい花の名前のしりとりのポインセチアが物議をかもす

5月4日
 とりあえずピンクに塗るの塗ってから好きか嫌いか哲学するの

5月10日 RIUMさんの#連想短歌 気のせい
 真夜中にまつぼっくりが落ちるとき「あっ」と小さな声が聞こえる

 さっきから東急東横線急行小手指行に尾行されてる

5月10日 『 帰 』
 帰宅してすぐにパジャマになるひとが間に挟む全裸の時間
 
5月14日 RIUMさんの#連想短歌 #イラスト詠
 留め金がバカで閉じない傘だけどさしてる限りバカはばれない

5月14日 『 出来 』
 飛ぶことは出来ないけれど少し浮くくらいは出来る人とのデート

5月20日 RIUMさんの#連想短歌 #イラスト詠
 一本のパラソルチョコを分け合って虹は案外濡れているのよ

5月20日 RIUMさんの#連想短歌 #イラスト詠
 ジャンプ傘なんて素敵なネーミングわたしもジャンプホモサピエンス

5月23日 RIUMさんの#連想短歌 #イラスト詠
 モナリザはモナとリザとに分裂し生きたまんまで腸まで届く

5月24日 『 それ 』 
 片方のピアス失くせば永遠にそれは片方失くしたピアス

5月27日 RIUMさんの#初句
 今日中に金魚すくいをしたいなら蟹座の人に乗り換えなさい

5月31日 『 浮 』
 少しだけ浮かんで見せて一瞬でいいからわたしの星を離れて

6月3日 『 雨 』
 いつどこで誰と聴くかが大事なの地球は雨の打楽器だから

6月4日 RIUMさんの#連想短歌 追憶
 蝉時雨夕日に溶けていく背中届かない声焼け落ちた橋

6月10日 RIUMさんの#連想短歌 高級
 西川の羽毛布団が捨ててある一坪程の銀座の空地

6月15日 『 衣 』
 ダンボール箱に衣類とマジックで書いてあるただそれだけの嘘

6月20日 『 NO 』 
 帰国子女のNOが強くて店番の従兄がくれたミドリガメだよ  → アシダマナだよ

6月23日 RIUMさんの#連想短歌 無茶
 予報では午後からラー油が降るらしく餃子の皮でつくった合羽

6月24日 RIUMさんの#連想短歌 #イラスト詠
 不発弾処理をしている向日葵の畑にあった歯車一つ

7月10日 suiu
 風が葉を奏でる音に意味はないだからこんなに宇宙は近い

7月13日 RIUMさんの#初句
 夏だからという理由で許される失敗だけを繰り返したい

7月14日 『 遠距離恋愛
 片想いしてるときより遠いってこれが相対性理論なの?
 
7月16日 suiu
 これがこの地球最後の一本の線香花火だよ火をつけて

7月17日 『 淫 』
 清冽な水に沈んだ豆腐すら淫らと思う十四の夏
 
7月22日 suiu
 水曜の午前0時が集配の郵便ポストを囲む鬼百合

7月22日 『 孔雀 』
 躊躇せずバットで叩き割るがいい西瓜が夏の心臓ならば


7月24日
 アパートは六畳一間孔雀付き一畳半は広げた羽根に

7月31日 『 底 』
 川底にわたしの名前が書いてある石がたくさん沈んでいます
 
8月2日 『 茶 』
 きつすぎずゆるすぎずという微妙さで茶筒の蓋が仕事している

8月11日 『 自由詠 』
 もう元の姿に戻ることはないビニール傘が照らされている

8月19日
 手の甲に日時と場所の記しある江間歯科医院受付係

8月19日 suiu
 ハンガリーにて幅跳びを跳ぶ人の背後に上がる地元の花火

8月25日 『 聾唖 』
 目で聴いて指で話をする人の耳たぶにある三つのピアス

8月31日 #満月の夜に短歌をつぶやく
 満月を掘り出すビーチフラッグス鳥取砂丘に並べたお尻

9月2日 『 麺 』
 カップ麺ぶっかけられた顔映す水槽のグッピーがきれい

9月3日 suiu
 御守に明かせぬ嘘をしたためし母の利き手でないほうの文字 

9月3日
 時間迄身を潜めゐし「純喫茶アフリカ」といふ半地下の席


9月3日
 無花果のまだ青き実の香り立つ夜間救急外来入口


9月7日
 こほろぎとあだ名されたる友とゐて台風予報円狭まりぬ


9月17日
 片時も赤きクレヨン手放さぬ子を抱く母の唇青し


10月1日
 幻の猫がいるから踏まないで そこにいるからもう踏まないで


10月14日 『 寧 』
 くしゃくしゃに丸めた紙を丁寧にデッサンすればくしゃくしゃな紙
 
11月12日
 陽だまりの祖母のピアノの調律に来る牧師のロザリオ古し


11月12日
 東北の雪の便りをかき消して中華鍋振る夜のチャーハン


11月13日
 知り合いに電車で遭遇して以来沈黙が歯に挟まったまま


11月13日
 テルミンを北極点に突き立てて気圧配置を奏でる区長


11月14日
 月下美人軽く湯がひて二杯酢でシャリシャリ食みぬま白き花弁


11月14日
 三秒で二tの砂が落ちるよう設計されている砂時計


11月15日 『 立 』
 鳩サブレ立てておきます留守中に我を忘れてしまわぬように

11月16日
 シリウスが水面に映る水槽で増えたり減ったりしているメダカ


11月27日 『 隣 』
 アパートの隣の部屋のドアノブに昨日からいるカマキリの雌
 
12月19日  野良之コウモリさんの【一募一絵】vol.12
 ジャンヌダルクなんて知らない従順な夏の亡者を率いて真冬


11月29日 木野喜久子さんの#下の句
 着崩れた十二単で思い出す三鷹に昔あった階段

12月16日 『 返 』 
 借りていたビニール傘を返すだけ ただそれだけのための有給

12月15日
 食卓をスネアドラムの転げ落つ音に慄く夜半過ぎかな

12月9日 『 稀 』
 ごく稀に東中野の立ち飲みでそっと包んでくれるシナチク

12月4日 『 繋 』
 一本の黄色いヒモに大量の幼稚園児が繋がっている

12月3日
 はっきりと会話が聞こえ窓際の人を支持しかける喫茶店

以上です