宇祖田都子の短歌の話

森羅万象を三十一音に

『想い出に観覧車』たにゆめ杯2応募作

たにゆめ杯2応募短歌連作『想い出に観覧車』について

結果は、落選でしたが作る過程がとても楽しい連作になりました。

連作のおおまかな構成の考えかたには「経時性」と「共時性」があると思います。「経時性」は因果(ストーリー)で、「共時性」は縁起(キュビズム)です。

今回は、並べ方としては「経時性」で考え、一首ごとは「共時性」を意識しました。わたしの趣味としては、徹底的に「縁起」で押していきたいのですが、説得力をもたせるためのパワーがわたしにはまだないので、理解、共感、分かりやすさを考えると、「ストーリー」が有効と考えました。

  観覧車を選んだのは、それが散々歌い尽くされた陳腐なものになっていたからでした。その手あかのついたイメージをすこしでも拡張できればという野望がありました。

 結果は……

この短歌で用いた語彙は、マンダラートの方法で集めたもので、これらをどのように並べれば「詩情」が生まれるかと考えました。始めは途方にくれていましたが、「観覧車」という言葉を必ず読み込むことと、それを五・七・五・七・七に順番にずらし、観覧車が昇って降りてくるまでを表現できれば、という風にしてみると、あとは意味が通るように単語を並べる作業になりました。

 結果的に、「成長」と「事件」と「滅亡」と「救済」が現れてきたように思います。

わたしは作り手として、短歌に何を求めているのか。

そんなことを見詰め直すことができたと思います。

それでは。

観覧車一周すれば大人びてバルサミコ酢を買ったりもする

初めての観覧車には母親と蜻蛉と知らない男の人と

レントゲン写真に青い観覧車台湾栗鼠の出てくる絵本

ゴンドラをコックピットと呼ぶときに観覧車へと吹き抜ける風

弟と羊を見間違えた夜の星とアルコールと観覧車

見下ろせば海にたくさん散っている大観覧車と贋観覧車

想い出はプラネタリウム観覧車チケット売場の骨格模型

運命の輪は時として観覧車時間は約束のためにある

雨降りの観覧車から見える月正面衝突不可避のサイン

観覧車微動だにせず朽ち果てて千年後って想い出みたい