宇祖田都子の短歌の話

森羅万象を三十一音に

うたそら 第5号 2021年11月 連作の部 ひと言感想文

『うたそら』は千原こはぎさんが刊行なさっている短歌集です。

短歌|歌集『ちるとしふと』(書肆侃侃房)・『これはただの』刊行|短歌誌「うたそら」編集鳥|うたつかい編集部|鳥歌会 @torikakai|@kohagi_bot|「あいたいとせつないを足して2で割ればつまりあなたはたいせつだった」】

引用元:twitterプロフィールより)

2021年11月に第5号を発刊。毎回、たくさんの方が投稿した短歌(八首連作の自由題と、毎回設定されるお題によるテーマ題詠)が並び、とても刺激的な歌集です。

【HPの紹介文を転載します】

短歌誌「うたそら」第5号

短歌誌「うたそら」の第5号です。

ご参加いただいた歌人さまは96名。連作欄には74名、テーマ詠欄には77名のご投稿をいただきました。

全部で670首の短歌をお楽しみいただけます。

引用元:http://kohagiuta.com/utasora/05/

因みに私は、第一回から、連作の部へ「屋上獏部」を投稿しています。

さて、今回は『うたそら』第5号の八首連作の部のひと言感想を書きました。連作の中の短歌を取り出すのちょっとうしろめたい気もするけれど。そして、全ての方の連作に触れたものではないのですけれど。

ひと言感想

素数回目の落下 相河東さん

灰色のホラー映画は残酷なくらいに味と匂いがしない

→非現実的な現実を生きる今の、すがすがしさすら感じる絶望感が連作の印象として残りました。

閾値 有村桔梗さん

読点をひとつ打たれてまたすこし冬の気配の増しゆく並木

→さみしさが沁みとおって、もう自分に定着している静かな時。「読点」のことをずっと考えています。

Fall/テキサスヒット 五十子尚夏

佐藤優樹に煽られている幾たびも見返す夏の野外フェスにて

→とても自然な調べに、比喩がはまっていて好きです。今年もROCK IN JAPAN FESTIVALで煽る佐藤さんを見たかったなと思いました。

写真に触発されて 石川順一さん

バーガーとどら焼き食べる朝餉かな畳の工事が二日で終る

→とても俳諧味を感じる連作でした。

特例市育ち 伊東すみこさん

無いものが多すぎるのに高級な食パンはあるピンぼけの街

→私の住む町に重ねてしまいました。とても印象が似ていて。

オーバーラップ 泳二さん

幾千の玻璃の墓標をかすめ飛ぶひまわりたちを乗せた旅客機

→格調の高さを感じました。どことなく不穏な揺らぎに読み返したくなります。

ニュータウンのさざなみ 回帰しとるさん

あれがこの町にひとつのガソスタでいちばんでかい直方体で

→町で一番でかい直方体、という把握が素敵です

犬と歩けば 橘高なつめさん

寝静まるベッドタウンを横切れば次々光るセンサーライト

→この情景。とてもリアルで好きです。

三島のうなぎ 久助さん

工場とマックスバリューの間より仰ぐ迫力満点の富士

→「写真には」の歌も大好きです。三島駅懐かしいです。

町に暮らす 佐々木ふくさん

天丼がおばあちゃんちと同じ柄の歯医者で奥歯を押され続ける

→「婦人科の」の短歌もとても好きです。町を歩いている気持ちになりました。

ぱぴぷぺぽになる 鹿ケ谷街庵さん

キャバ嬢の名刺を見つけた嫁さんの打点の高いドロップキック

→日常がすこしだけ非日常を呼び込んでしまう瞬間を捉えていて好きです。

すべてをおしえることはできない 島田さくらこさん

よく知らない人にやさしくされるのに本当の名前なんかいらない

→一本の映画を見終えたような、広がりのある歌だと思いました。

KYOTO SAGA 雀來豆さん

百番を越えてもつづく宇治橋で出会った少女らのあそび歌

→百物語を読んでいるような、魔都へ迷いこんだような気がしました。

幽霊少女の舞踏会 白石夜花さん

街外れ 廃劇場に 現れる ドレス姿の 幽霊少女

→定形で綴られていく、少し哀しい掌編。素敵でした。

変える 瀧口美和さん

恐怖より不安が勝る国にいて月のない夜を新月と呼ぶ

→上の句と下の句の取り合わせが絶妙と思いました。

波と魚のように chariさん

「割れるからシャボン玉は飛べるの」とフェンスの上を歩く少女は

→過ぎし日の学生時代を思い出し、少し涙がでてくるような連作でした。

ミスター・ミスタードーナツ 西村曜さん

存在がきりんであるということはなにか悲しいことかもしれず

→夕方の陽射しを感じさせる連作でした。

ここは物語のおわり 松島ゆうりさん

みるでしょう。きいろいことり、けのながいいぬのやさしさ、あなたもいつか

→こういう短歌、作ってみたいなと思いました。

とんとんとん 御糸さちさん

同じ豚だったのだろう同じ日に期限の切れる肩ロース二枚

→凄い歌。好きです。

姉と弟 深影コトハさん

店員の誤解はあえてそのままに真昼ひとつのパフェを分け合う

→甘酸っぱい物語を思いました。

ない 宮岡蓮子さん

誕生日なにがほしいか問われたら この関係の正しい名前

→関係を正しくするのではなく、この関係に正しい名前を、というところが好きです。

秋は 渡邉和博さん

あったか~い缶コーヒーを手にもって手にもったまま手があったか~い

→とても楽しい、エッシャーの騙し絵のような短歌だなと思いました。

以上です。

いろいろな方のいろいろなアプローチに触れることのできる、とても素敵な『うたそら』是非、お手にとっていただきたいです。

それではまた。