宇祖田都子の短歌の話

森羅万象を三十一音に

屋上獏部 Ⅷ・Ⅸ

わたしが、勝手に『屋上獏部』を投稿する場所にしている千原こはぎ様 @kohagi_tw の「うたそら」第12号の締め切りが今月末です。

【短歌誌「うたそら」第12号】 今月末が〆切です
募集:8首連作・テーマ詠「温」・一首評 〆切:12月31日 24時(1月初旬発行)
投稿先等の詳細はURLからご確認ください。 kohagiuta.com/utasora/
今号もたくさんのご参加をお待ちしております!

ということで、「うたそら」第8号・第9号へ投稿いたしました『屋上獏部』Ⅷ・Ⅸをこちらにまとめ、Ⅻを作る手掛かりにしようと思います。

屋上獏部Ⅷ

簡単にいいよって言うジャムパンが売り切れていた理由も聞かず

先輩の顎がコトリと載っている膝のお皿でスープを啜る

屋上に呪文のごとく響く名よ五月の夕の同報無線

屋上にヒビは鋭く深くあり階下に闇の雫を落とす

屋上に打ち捨てられたオルガンのふいごの音にそっくりだった

屋上を出るときみんなごめんねとつぶやいている五月の夕べ

青葉風タウンページをパラパラと鳩に読ませるポッポォーッポポ

もう何も受信してないアンテナが私を含め三本もある

屋上獏部Ⅸ

屋上の錆びた手すりに絡みつくヘチマの水を採る細い管 

犀を見た日はまだ青い柘榴の実ひっそり落とす中庭の池

セーブルの絵筆を折った先輩の彫刻刀のような眼差し

まっすぐに立たない笹へ先輩にもらった砂をさらさらかける

檄文 烏揚羽ガ屋上ヲ横切ル事ハ断固阻止セヨ

先生の煙草はキャメル先輩のスマホケースにナビブの写真

ひょうたんの形の池にひょうたんの形に育つ真鯉を放つ

屋上に降る雨のみを蓄えたヘチマの水で充たされる獏

 

以上です。

『うたそら』第12号。今からとても楽しみです。

それでは。

令和四年十一月の自選短歌五首

野村日魚子さんの『百年後 嵐のように恋がしたいとあなたは言い 実際嵐になった すべてがこわれわたしたちはそれを見た』

toron*さんの『イマジナシオン』

穂村弘さんの『ラインマーカーズ』(小学館文庫版)

の三冊を購入して刺戟をうけた今月。

さらに『音楽の科学』という本を読み始めた一節

『(…)つまり「文」は人間にしか作れない。単語を組み合わせて単語の総和以上の意味を表すという芸当は人間だけのものである(p.43)』

は、短詩を作る上で忘れてはならないことがまた一つ加わったなという気がしています。

それでは、今月の自選五首です。

11月1日 RIUMさんの#連想短歌 #イラスト詠
花をすぐ枯らしてしまう人だったすぐに履歴を消す人だった

11月3日 『 想 』
柔らかく大根を煮る妄想の新幹線は三島を過ぎる

11月7日
ベンジャミン・フランクリンラフカディオ・ハーンも蟹につけたい名前

11月10日 RIUMさんの#連想短歌 必要
梯子です必要なんです長いのが月に自力で舞い戻るんです

11月19日
新聞の勧誘員の地図にある教会までの遠い道のり

 

さあ。十二月。『うたそら』『カウントダウン短歌』(参加申し間に合っていればですが)。そして『大晦日108首チャレンジ』も可能ならば挑戦したいと、盛りだくさんの師走です。楽しみ。

令和四年十月の自選短歌五首

情景を描く短歌もいいし、心情をぶつける短歌もいい。短歌っぽい短歌は安心感があるし、短歌っぽくない短歌には驚かされる。言葉の実験みたいな短歌にも魅かれる。文語の格調も口語の気取らなさもどっちも好きだし、破調や自由律にもドキドキする。事実でも創作でもいいな、と思うものは多い。わたしはどんな短歌を作りたいのかと悩んでいたけれど、いまはどんな短歌が作れるかを楽しみにするようになってきた。好きな短歌ができない夜はなかなか眠れなかったりする。自選五首をつくった夜はよく眠れる夜でした。

令和四年十月の自選短歌五首

10月2日  RIUMさんの#連想短歌 忘れ物
屋上に脱ぎ散らかしてあるスーツ急いで飛んでいったんだろう

 

10月6日 『 斎藤 』
さいとうと言われてすぐに斎藤と書いたあの子もライバルなのか

 

10月11日 『 自由詠 』
ラングドシャ ガラスのビルの崩れゆく海辺の都市の名前ではない

 

10月26日  RIUMさんの#連想短歌 ルール
二日目のカレーを食べるスプーンが皿に触れたら一回休み

 

10月31日  RIUMさんの#連想短歌 力
風も火も水も命も螺旋なの だから三つ編みするのわたしは

令和四年九月の自選短歌五首

空と風が秋めいてきました。

うたの日 と RIUMさんのお題 で短歌を考える毎日です。

桜前線開架宣言』を読んで、好きな歌人の方がまた増えました。

その上で、わたしはどんな短歌を詠みたいのかぐるぐるぐるぐるしています。

それでは、今月の自選短歌五首です。

9月6日 RIUMさんの#初句
さよならが二番線から発車する大月それは素敵な名前

9月10日 RIUMさんの#初句
今日からは海を見下ろすファミレスを心の本籍地として生きる

9月17日 RIUMさんの#初句 
何もかも台無しにして午後七時頼んでおいた花火があがる

9月19日 『 なんて 』
どこからが浮気かなんて訊かれたら荻窪からと答えてやるわ

9月19日 RIUMさんの#初句
こうやって薄焼き卵つくる技たぶんわたしで途絶えてしまう

 

10月は、千原こはぎさんの「うたそら」がありますね。どんな短歌に出会えるか、とても楽しみです。それでは。

令和四年八月の自選短歌五首

夏らしい夏を満喫できました。もう九月ですね。
八月は、好きな短歌に指先が少し触れたような気がしました。イベントも楽しかったし、作ることも読むことも楽しむことができた八月でした。

では、今月の自選五首です。

令和四年八月の自選五首

8月8日
そういえば消費期限が切れかけのわたしのLOVEの色がヘンなの
RIUMさんの#初句

8月16日
落ちてゆく氷砂糖の速さにてビーチサンダル前を秋風
RIUMさんの#初句

 8月24日
初心者は飲んですぐ吐くのがコツと祖父が金魚を吐き分ける夜
『 すぐ 』

8月24日
一回も生き返らない犬のベス何度も生き返る猫のミー
RIUMさん#初句

8月26日
甘やかな噛み痕のこる右肩に神輿を担ぐ賑やかな夜
『 かな 』

 

来月は、文体について考えていきたいなと思います。それでは。

#CD短歌夏フェス2022 sideB 宇祖田都子自作まとめ

sideAにつづきまして、こちらでは、自作をまとめました。

2022年8月6日は熱いフェスでした。

わたしの出演順は23時から23時4分。
この持ち時間240秒のなかで、12個のツイートを用意していたわたしは、20秒に1ツイートするべく、コピペと画像添付のマシンと化して、指がつるほどツイートを繰り返しました。
なので、ステージを完遂できたことに満足を感じています。

観客としては、20時から0時30分まで、途中、洗濯や皿洗いなどをしながらもスマホを更新しつづけ、本編のTLの邪魔になるかしらと気にしながらも、素敵な短歌をリツイートして、それはもう楽しい夏の一時でした。(リツイートした短歌の紹介をsideAで紹介いたしました)
時はまさに立秋前日という、まさに夏の終りの一大イベント。50人が次々に登壇するTLは圧巻でした。

それではまずは、わたしのオープニングコメントから。

【♪】
河岸景都@kate_kawagishi 様
ありがとうございました。
夏の夜 盛り上がってますね!
さてここからは、宇祖田都子のステージです
フェスもいよいよラストスパート
みなさん。まだまだ声出していけますかっ
さいごまで楽しんでいきましょう
※この画像はセトリリストです
#CD短歌夏フェス2022

セットリスト

中盤のMCで少し話していますが、今回の短歌はすべて、スマホアプリの「マンダラート」と「Mindomo」を使用しました。
まず、「マンダラート」で、短歌にもちいる言葉を集めます。主宰が泳二様なので、メインテーマを「泳」に設定し、そこからまず八個のワードを出します。続いて、その八個それぞれを中心にすえて、さらに八個ずつワードを出したものが、セットリストになります。

この中から、五・七・五・七・七 の五つの節それぞれに用いる言葉を適当に選んだら、それを、マインドマップアプリ「Mindomo」へ記入して、そこで語順や助詞などをごにょごにょして、ぎりぎり意味が通るようにし、かつ「詩情」が生まれるものを目指して作成します。

 

usodamiyako.hatenablog.com

 

【♪】01

委員長それは遠投する玩具泳がせようとすればパニック

【♪】02

駅長に沈没船を任せきり逆光に鎮まるアドバルーン

任す

【♪】03

荷を下ろす渚に人の流れ止み青い鼓動のカウントダウン

人の流れ

【♪】04

進化とは七つの空に浮かぶ歌グレートウォールを超えた信頼

浮かぶ

【♪】MC

宇祖田都子のステージ
楽しんでいただけてたら、うれしいです
今日の歌は全て、マンダラートとマインドマップのアプリを使って、午後にスタバで作りました。
それではライブに戻ります。
盛り上がっていきましょう

わたしがこの方法を採るようになったのは、再三書いているとおもいますが、島田修二さんの「言葉へのあこがれを持つ」の言葉

何かを言おうとするのではなく何かを伝えようとするのでもない。とにかく五つの詩を書くのだと思うことです。(・・・)ひとりよがりにならないで、とに角、意味を通す工夫をしてみてください。(・・・)

を実践しようと思ってのことです。なので、マンダラートの中から一首に使う言葉を選ぶときは、なるべく関連性の低い言葉を選ぶように心がけます。名詞・動詞・形容詞などの配分がうまくいかなければ、選び直すこともあります。
もっとも難しいのは「意味を通す」というところで、これを「散文」でとらえては短歌の意味がありません。ひとりよがり、ではないということは、散文的にとらえられなくもない、ということです。でも「何かを言おうとする」「何かを伝えようとする」という態度は否定されています。作者の言いたい事や伝えたい事、を伝えために言葉を用いるのが散文なら、あらかじめそういう事が決まっていない。定まっていないものが、言葉を並べることによって、顕れてくる、というところを期待しているのです。なかなか、難しい詩境ですが、とても楽しいところです。
 あ、おしゃべりが過ぎました。まとめに戻ります。

【♪】05

自動的にワープと叫ぶ無声音賛成すれば遊んでられる

遊ぶ

【♪】06

ため息は重力に似た浮遊霊温度差からは逃げるしかない

【♪】07

遠くまで真空だから預けとく気性の荒い流体力学

遠く

【♪】08

長期休暇は宇宙まで逃げるためきっと嫉妬は現実逃避

宇宙

【♪】09

呼吸法押し付けられてラピュタまで旅路は海をリプレイさせる

【♪】エンディング

宇祖田都子のステージ、いかがでしたしょうか
眠くなってしまった、としたらごめんなさい
でもわたしは参加できたこと
この夏のとてもよい想い出になりました

つづきまして
みそのみそ@mis0no 様のステージです
それでは、どうぞ(拍手)

というわけで、わたしは出演を終えてほっと一息ついたわけです。今回つくった短歌はどれも気にいっていて、今後はマンダラートの段階でのワード出しを多様にすることと、一首五語選択を、なるべくランダムに取り出す工夫(番号をふってサイコロなど)をしてみたいです。これはとてもAI的な作業になるようにも思われますが、潜在意識に働きかける自由連想を用いているという点で、シュールレアリズムの流れを汲み、かつ偶然にたよる神経衰弱方式をミックスすることで「縁」のようなものも関与できるしくみではないかと悦に入っています。

平凡な言葉を平凡にならべてみたことのない景色を著せたらいいなと思っています。

【♪】グランドフィナーレ

川風の入る窓辺で冷麦を啜る遠くで花火があがる
宇祖田都子

240秒で12tweet=1tweet20秒。焦りました。
楽しかった。あっという間の4時間強。
夜半の風残暑に火照る掌へ
来年も是非参加したいです。
運営・スタッフのみなさま、参加者の皆様ありがとうございました。

#CD短歌夏フェス2022

暑い夏の夜。素敵でした。それではまた。

 

 

#CD短歌夏フェス2022 sideA 短歌鑑賞ライナーノーツ

2022年8月6日(土)20時からtwitter上で開催された総勢50名+α出演の熱いフェス。

@CDTNK_since2014
【はじまります!】おおお待たせしました!ただ今より「CDTNK夏フェス2022」を開催します!
今年の出演TANKArtistsは50名!!ハッシュタグは #CD短歌夏フェス2022 !応援メッセージも同じタグでどうぞ!!
短歌で夏はまだまだ熱くなる!!よ!!!

熱気そのままのまとめはこちらに。

togetter.com

今回はこの中から、わたしがとりわけ好きだった短歌をいくつかご紹介し、わたしがその歌のどこに魅かれたのかを、ライナーノーツよろしく書いてみようと思います。うまく言語化できるかわかりませんが、私自身の覚書のつもりでやってみます。

掲載は出演順です。

短歌鑑賞ライナーノーツ

雀來豆@jackbeans2 様 連作『SISTER』 10首より

姉さんはチョコ、妹はバニラ、わたしは絶対に髪を切らないつもり

姉をチョコ、妹をバニラ、でも次女の「わたし」はその喩にのらない。「絶対に」という強い意志は、ひょっとしたら不本意な譬えられ方をした反抗心なのかも。でも「切らないつもり」という揺らぎに、そんな自分ですら信じきれない不安定さがにじみ出ていて好きでした。

弟が秘密のように舐めている食卓塩の真っ赤なキャップ

運動部なのかなと。食卓塩、あの小瓶がすぐに思い浮かびます。この食卓塩の姿ががーんと出て来くるところが好きでした。

月岡烏情@ujou31 様

人造腦 針の折れた電極 雨 夏といふまぼろしのかたすみ

文体が好きです。旧字体と文語に似合う世界にそぼ降る雨。〇〇醫院という看板が目に浮かびました。

緋の花の想像線を超えてゆく泪 蜚語 美しきくはだて

緋の花。出典があるのかもしれませんが私は不勉強でわかりません。それでも前の歌の世界観に統一されたモノクロームにパートカラーの緋は印象的で。悲劇は美しくあるべきと運命に従う諦観など、深い物語性を感じて好きでした。

koizumi kio /キオ@kiokoizumitanka 様

レアチーズケーキの横に添えられてミントは小さな日陰を作る

添えられたイラストも素敵で、このミントが作る小さな日陰が、ケーキ皿、レアチーズケーキの白白白に俄然、存在感を与えている。この発見。味も香りも舌触りも、そしてこの喫茶店の雰囲気も全てが完璧に想像できて好きでした。

インアン🍔(In-N-Out@InAn_erotica 連作『八星』八首より

その時はどうか滅亡したことに誰も気づいていませんように

AIのイラストと相まって神秘的な宇宙観が広がっていました。ノストラダムスの大予言は、実は的中していて1999年7月以降、地球は滅亡しているのに、だれもそれに気づいていないのだ、という話を想い出します。優しさのような怖さが好きでした。

東こころ@cocoronohana 様

遠い月だったあなたとキスをしていびつな夜が生まれてしまう

ただ見ているだけの悲しい幸せが、思いがけず接触してしまったことから、全く未経験の領域へ踏み込んでしまった。それが幸せなのかどうかすらわからない不安。だけど、何かが生まれるときというのはきっと、そんな風なのだろうと感じました。いびつさが歴史になるんだなと感じさせてくれるところが好きでした。

龍翔(苗字探し)@oppizuntsuan 様

恋人に家を追い出された俺の開襟シャツのふるえる金魚(龍翔)

強面だけど弱いのでしょう。金魚はすごくリアルな図柄で、レーヨンみたいなテレッテレの大きめのシャツだから、すこしの風や体の動きに反応してバタつくのですね。俺は平気だけど俺の金魚がふるえているぜ、みたいなところが好きでした。

泳二@Ejshimada 様 カウントダウン短歌夏フェス2022主宰

俺のこといま相棒って呼んだのか 変な言葉を使うんだな、龍

龍という名前にひっぱられたのかもしれませんが、村上龍のコインロッカーベイビーズとか、愛と幻想のファシズムなんかを彷彿としました。龍さんはまだ、俺をどう呼べばいいのかわからない。そんなとまどいから「相棒」と呼び掛けてみた。そこがなんともくすぐったかったり、ちょっと残念だったりする俺。二人の感情の機微が好きでした。

しま・しましま@simashima9 様

この辺りから海が見えはじめるはずとわかっていても唐突な青

一度来た、いや通いなれた道であったとしても、この角を曲がると、トンネルを抜けると眼前にそれが広がることを、待っていたはずなのに、いざその時が訪れるとつい「海だぁ」と叫んでしまう感じ。海の青はいつだって、想定よりも深く明るくて。そんな高揚感が好きでした。

中村成志@nakam8 様 『部屋に転がっていた本の106ページ数行とそれに対する反歌』4首より

上質の水まんじゅうの硬さにて山羊の乳房を巡る血流 『カヨと私』 内澤旬子

全体の構成が素敵で、朗読の演出が素敵。声も素敵で、文体も素敵。全部好きですが、三首をピックアップしました。「血流」という体言止めがかっこよくて好きです。

1/6フィギュア「ノーナ」の沈みゆきウユニ塩湖に波紋は満ちる 『超可動ガールズ』第一巻 OYSTER

「ウユニ塩湖に波紋は満ちる」がかっこよくて好きです。

空間を縦横高に割いてゆく指の硬さを絵画と思え 『騎士団長殺し 第2部』村上春樹

「思え」という結句の命令形に痺れます。「指の硬さを絵画と思え」ただただ好きです。

千原こはぎ@kohagi_tw 様 Website and Logo Design
『七物語2022』雨あがり より

今年初すいかをひとり食べているあなたを夏に連れていかない

さまざまな企画、イベントでお世話になっています。朗読の声がきれいでしずかで、ずっと流していたくなります。この歌。べつに「あなた」に伝えていないのです。独り言なのです。いや、言葉にすら出していないのです。大きな西瓜をもらって、一緒にいたときはそれを運ぶことも切ることも冷蔵庫へ入れることも、冷蔵庫に入りきらないことも、食べることもみんなイベントになっていたのに、たんたんとシャリシャリと初西瓜を食べている夕方なのです。遠くに花火が上がる夜なのかもしれない。そんな温度感が好きでした。

去年買った傘が使いたくなったから出かける理由はそんなのでいい

「そんなのでいい」という朗読の音声が、なげやりでさびしげなところが好きでした。「そんなのでいい」とは思っていないのですね。そうすると「去年買った傘」にいわく因縁が感じられてくるのですが、案外、デート途中で雨になりそうで彼に買ってもらったコンビニ傘だったけど結局降らずに使わなかった、という感じの傘で。それが意味をもつようになってしまったのですね、今年は。すると、出かける理由は、その傘を返しにいく、だったりするのかも。でも、いかないけどね。という物語が広がるところが好きでした。

ネコノカナエ@nekonokanae_uta 様

ゆうぐれの縁石たちはワニになりよろず数えるなら通りゃんせ

これはもう「見立て」の素敵さが好きでした。そして自分ルールの一人遊びして帰るシチュエーションは、夕暮れに伸びるシルエットの景色を浮かび上がらせて。帰りたいような帰りたくないような、なにもかもが何かの途中でありながら、でも猶予はないという切迫感の宙ぶらりんをぴょんぴょん飛んでいく小さな影が見えるところが好きでした。

河岸景都@kate_kawagishi 様

夏の日の水底に棲むいきものよ眠らぬことを選んだ魚

回遊魚は泳ぎ続けなければ生きていけないと聞きました。またほとんどの魚には瞼がないそうです。そこに選択を見出したところが好きでした。夏はまた、自分も眠らぬ街を回遊する魚のようではないか。眠らないことを選んだのではない自分は眠りたいのに眠れないのだろうなと。選択の余地について考えさせらえたところが好きでした。

Mika@Mika_tanka 様

あなたへとつながる世界であるのなら大体何でも許せるのです

「貴方の存在があるからわたしはなんとか生きられる」という橘いずみさんの歌を想いました。優しくなれるし、耐えられる。それはあなたの眼差しを感じられるから。そんな相手をもつことは幸せなのだと思います。わたしにもそういう人がいて、その人に伝えて恥ずかしくないことをしよう、なんて自らを律したりもしますし。だけど、こわいのは、「あなた」へ繋がらない世界がおとずれたとき。これは宗教の歌ではないけれど、宗教に転化されたらおそろしい歌になるのかもなんて考えちゃうところが好きでした。

星野珠青(ほしのたまお)@hsn_tmo 様 『会おうよ』掲載の30首連作「会おうよ」より

平凡に暮らす才能 賞罰の欄だけなにも書くことがない

分かります。手のかからない子だったのです。「都子は大丈夫」とほおって置かれることの多い人生を送ってきました。それが楽だとも思いましたし。だけど自分、パーマかけて生活指導にはたかれたりしたことあったりします。わりとストレスたまる生き方なのです。平凡に暮らすってことは。と、懐古的になってしまったところが好きでした。

木野葛紗 a.k.a. こだぬき@blueregret 様 テーマは「奇遇」より

おみくじを心ゆくまで引き直しひとつひとつの奇遇を捨てる

おみくじ引き直し問題が抱える別の闇(?)を照らし出した発見が好きでした。それぞれのおみくじにはそれぞれの出会いと別れが多分余白に記されている。それを自分の欲得のみでどんどん捨てて引き直すとき、失われる命があるのかもしれない、なんて思いました。

ソウシ@sixia0uT8BMBIgp 様 『暑中お見舞い申し上げます』

お互いの土地の祭りを送り合う暑中お見舞い申し上げます

ソウシ様の歌はどれも、上の句が俳句として完成していると感じました。「それにつけても姫のいとしさ」(by 新右衛門さん)「それにつけてもおやつはカール」「今だ出すんだブレストファイヤー」など、万能の下の句探しも楽しいです。この歌で「はっ」としたのは「お互いの土地の祭りを送り合う」という、共同体間の交通というか、おどろおどろしい交易的ななにかを感じるところが好きです。土地のお祭り絵葉書などを送り合う、という何気ないやりとりのなかにも、土着の歴史の怨念のようなものを感じます。金田一耕助の世界です。

以上でした。独断と偏見にみちた読みですが、わたしはこんな風に受取、「好きです」を伝えています。

sideBでは、自作のライナーノーツをお送りします。

それでは。