宇祖田都子の短歌の話

森羅万象を三十一音に

令和五年四月の自選短歌五首

ゴールデンウイークは三連休がとれました。

とはいえ普段の活動範囲を超えることはなかったのですが、短歌活動としては、#いわくのつけく2 に取り組むことができました。このことについては、後日ブログにまとめようと思います。

さて、四月は自己発信の短歌の数が増えたと思います。休日の朝、まとまった数の短歌が出来る、ということが多かったのです。

思えば、短歌で伝えたいことがあるから短歌形式でそれを伝えようとするという当たり前のことが、わたしはとかく苦手でした。短歌は創作の書式だという認識がずっとあるからです。だからこそ、お題や付け句以外のところで、短歌に詠みたい、という衝動をもっと大切に育んでいければと考えています。

それでは、令和五年四月の自選五句です。

 

令和五年四月の自選五句

4月12日 『 空 』
「空はじめました」ののぼりはためかせ軽トラックが海から戻る

4月24日 『 迎 』
死んでからやることリストの二番目にあなたを迎えに行くを書き込む

4月26日 RIUMさんの#初句
見えているけれど見えないフリをして下北沢の話などする

4月27日 RIUMさんの#連想短歌 他人
わたしかもしれない人とすれ違い振り向いちゃった なんか悔しい

4月30日 『 いやらしい 』
いやらしい花の名前のしりとりのポインセチアが物議をかもす

 

それではまた。

令和五年三月の自選短歌五首

 日に日にあたたかくなってきますね。桜は散り始めました。色彩の息吹き返す庭や畑に飛び交う虫の輝き。水の匂い。春を忘れていたことに気づかされる毎日です。

 三月も好きな短歌をいくつか作ることができて、短歌の「文法」みたいなことを考えたりする月になりました。瀬戸夏子さんの『はつなつみずうみ分光器(左右社)』から歌を拾い始めていて、2000年はもう24年も前になるのだな、なんて「無」になったりして過ごしています。

それでは、令和五年三月の自選短歌五首です。

令和五年三月の自選短歌五首

3月23日 RIUMさんの#連想短歌 #イラスト詠
ガチャガチャに死んだ何かが入ってる脚がたくさんある何かの死

 

3月23日 『 私 』
私書箱はザトウクジラの屍の歌を再生するオルガンに

 

3月27日 『 気球 』
2番線気球が通過いたしますそっと瞼を閉じてください

 

3月30日
ジャンプして桜の下でジャンプして燃え尽きるまでジャンプし続けて

 

3月30日 『 ミミズ 』
不用意に掘り起されて身悶えるミミズみたいな告白直後

 

さあ、新年度ですね。

発見を発明しつづけていく短歌を作れるように暮らしていきたいと思います。

令和五年二月の自選短歌五首

2月は28日までしかない月なのですが、わりとたくさん短歌が作れてよかったです。短歌ならではの表現。に少しは近づけたかなという気がしなくもないかもしれない歌も垣間見えたり見えなかったりするように思ったりなんて、とことん弱気ではありますが、短歌って楽しいなと思いながら作れるようになってきました。今月もRIUMさんと木野喜久子さん、そして「うたの日」のお題に頼った作歌となりました。お題なしの自発的な短歌も、もっと作っていけたらいいなと思います。

それでは、令和五年二月の自選短歌五首です。

令和五年二月の自選短歌五首

2月5日
家にある椅子の数だけ猫が居て猫の数だけ皿のある家

 

2月14日 RIUMさんの#連想短歌 「バレンタインデー」
カロリーの他に求めるものもなく雪山で分け合うチョコレート

 

2月17日 #初句「弾け飛ぶ」#ついうた
弾け飛ぶ無数のバネのそれぞれに生まれる希望不安悲しみ

 

2月21日 『ドロップキック』
るるぶ』にも『ことりっぷ』にも「名物はドロップキック」と書いてある島

 

2月23日 『 温 』
温かな石をみつけて握りしめ冷たい石にする昼休み

令和五年一月の自選短歌五首

年が改まって一ヶ月が過ぎました。お正月気分もないまま温かな一月だったと感じています。最近、万年筆や文具の専門店が東京へ移転してしまって、閉店の一日を取材していました。それは、ミニコミサイズに編集して脱稿したのですが、いつか、身辺雑記としてご報告できればと思います。

それでは、令和五年最初の自選五首です。

令和五年一月の自選短歌五首

1月7日 #RIUMさんの初句
この先は腕力だけが物を言う これは羽ばたくための筋肉

1月10日 RIUMさんの#連想短歌 「部屋」
よかったら寄ってく? なんて言えなくて胡桃を砕くほどの握力

1月13日 RIUMさんの#連想短歌 「あの人」
「母」を指す言葉全てが温すぎて使えなかった学生時代

1月19日
暗闇に蜂蜜瓶を探し当て本日分の夜を呑み干す

1月26日
旅先で「円」を両替した国の通貨単位が「風」だったこと
『 風 』

 

以上です。

屋上獏部 Ⅹ・Ⅺ

千原こはぎ さん編集発行の「うたそら」の八首連作のコーナーへ毎回送っている

『屋上獏部』を、自身のために定期的にまとめています。

 今月初め(元旦!)に「うたそら12」が発行されました。

千原こはぎ 

 

あけましておめでとうございます! 【短歌誌「うたそら」第12号が完成しました!】 PDF(スマホPC閲覧用、コンビニ印刷用面付け版)は以下のサイトからDLしていただけます。 kohagiuta.com/utasora/12/ B5サイズ/28Pの冊子となります。74名の509首の短歌をお楽しみください #うたそら #短歌

毎号、読み応えたっぷりの短歌誌です。

さて、「うたそら12」ということは、屋上獏部もⅫでした。12号×8首=96首になったというわけで、次回で100首を越える計算です。

わたしは『屋上獏部』という連作と通じて、一体なにを描いてきたのか改めて考えみたいと思いました。

それでは、アーカイブ Ⅹ・Ⅺ をまとめておきます。

屋上獏部Ⅹ

夏休みピエロが怖い登校日部長がくれた異形のピアス

後肢で入道雲を蹴り上げよクレーコートに響くコーラス

三ツ折のスカート裏に少しだけ菫色したミクロコスモス

肌色のクレヨンだけでできている獏の神社のおみくじは「喉」

真っ黒な虹の真下で噛み締める薬草園に光の長さ

渦を巻く銀河宇宙が落ちてきた弁当箱の蓋ですくった

鰯雲みたいに床に敷き詰めた炸裂しないモザイクタイル

チョコレート通り過ぎてくコオロギの髭と足とを入れ替えながら

屋上獏部 Ⅺ

唐突に踊り場のある階段に読んだ形跡のないバイブル

「言葉おほければ罪なきことあたはず」大きな岩の夢を見る犀

ひつようなくんれんをするオルゴール閉じてはじめる指きりげんまん

教会とパン屋が見える屋上に唯一つながる非常階段

預言者トロンボーンを闇雲に伸ばして拾う君のハレルヤ

まぼろしのサイコロ二ついつまでも転がり落ちるラセン階段

本名は覚えてませんクリスチャンネームはミカといいます 母です

煙突の内と外とを行き来するメビウスの輪みたいな読書

以上です

 

大晦日108首チャレンジのこと2022年版

と、いうわけで昨年2022年12月31日。三度目となる大晦日108首チャレンジに取り組みました。

2020年は「一〇八煩悩」

2021年は「手帳」

というタネを仕込んでいましたが、今回はおなじみの「マンダラート」からワードセットを作りました。

 

マンダラート

2022年は10個くらい作成していて、そこからフェスやCDなどで使用したものを除いた7個から、ワードを拾うことにしました。

 

usodamiyako.hatenablog.com

マンダラートは重複を除けば一個につき73のワードを生成できますから、

75×7=511はすでに用意されていることになります。

実際には重複がかなりあって、自分が好んでいるワードの傾向が分かるというのは、新たな発見だったのですが、ざっと460ワードほどが候補にあがりました。

それを108で割ると、だいたい一首に4ワードを消費できる計算になるわけです。

12月30日に、1セット4ワードを108組作っておいて、今回はこれをネタにしました。

ということで、どんな108首を作ることができたのか、以下にまとめます。

色を付けたものは わたしの好きな歌です。

チャレンジ

#大晦日108首チャレンジ 宇祖田都子

2022年12月31日 5:08-14:13 9時間5分 完走


1 早朝に上がる狼煙は生贄をブリキの神に届ける名所 

2 有毒となるまで意味をカピカピに洗わずにおく神の雑巾

3 きな臭いオブジェと化した池の鯉つながりのない記憶を隠す

4 匂いです 音速で目隠し外し東の空にほぐすさざ波

5 七階の渡り廊下に咳の音両手に赤いバケツを持って

6 アメフラシ罪を被って黙り込む鏡のような表面張力

7 水切りのモールス信号めく逃避地震は水中花を揺らさない

8 ナルシスの胸を開けばキラキラの瓦礫の海に死ぬアメンボウ

9 朝ぼらけ コンクリートはゆらゆらと断続的にラップを阻む

10 暗がりをほぐす手つきで爆弾を処理した後に見る鯉の口

11 そんな貧乏ゆすりしてると膝小僧が鏡になって砕けちまうぜ

12 両端にウミウシが居る糸電話 愛を造花で済ませた報い

13 金魚鉢で多彩な襞がこすれあう金属音がするの 割りたい

14 柔らかなモノに巻かれた心臓の波形を音に戻す轟き

15 龍を呼ぶ名所の土を持ち帰り飼い葉に混ぜて与えたヒヨコ

16 煙幕をかきけす青い雨漏りに逃げも隠れもしないガンダム

17 夢ですか夢オチですかエンドレスですかルフランですか 「リピート」

18 遠方のジェンガみたいなベランダは個室マッサージのビラばかり

19 経験値高めの人がマンションを絶対下から潰す記念日

20 うさぎ連れのまみと合流するダムに蛍光ペンで「しるし」したから

21 顔のへげへげのとこに眼鏡がはまるから飾りは不要 カード払いで

22 鯛みそとトランプ送るお歳暮の宛名は「エース」簡易包装

23 京都かな 灯台みたいな石像とお城みたいな枯山水

24 ロンドンロンドンロンドン リフレインする土踏まず脊柱だって捩じってほしい

25 day by day 双眼鏡で目を凝らし発音の邪魔ばかりしないで

26 悠久の襞の奥からどんぶらこ 薄く裂かれたミルフィーユ太郎

27 がっちんこ漁をするならペアになる必要はない きゅんとさせてよ

28 ブリッジで卒業生が練り歩く石見銀山までの道のり

29 他人事のように部屋まで押しかけて未練をごまかすために口説くの?

30 水掻きが進化するまで努力する特訓部屋の流水の装置

31 真冬でも一級河川の河口にはハートの刺繍が流れ着きます

32 タブーとは虹がかかったピラミッド コアラのマーチの隠れ心臓

33 ゆっくりとバブのローズのシュワシュワへ赤き駱駝はゆっくり沈む

34 都会には回転寿司の皿までもおやつに食べる習慣がある

35 早食いかトランプタワーかガラス吹き 京都観光名所案内

36 もう少しゆとりが欲しいコルセット オペラグラスと団扇も欲しい

37 馬車に乗り指にささったささくれを抜いてもらいにいくルイヴィトン

38 鉄臭き沼に沈みし足枷に水より重き命を想ふ

39 窓のない部屋に逆さの頭頂部とぐろを巻いたまま白骨に

40 信仰は沙漠の砂を十字架で埋め尽くすまで仮面のままで

41 キープユアスマイル 髪を肩までばっさりと切って墳墓へ置くリーチ棒

42 パニックを待ちわびていた屋根の上わりとさばさばした最後の日

43 フーディーニゆっくり強制され箱へ 種も仕掛けもしてない箱へ

44 あまりにも無防備すぎる境界が瞼だけしかない視神経

45 海割ってこたつでみかん剥くモーゼ馬鹿になってるサーモスタット

46 世が世なら摩天楼だぜマンションに煙突がない貧乏な町

47 ペットにはきちんとしつけ輪投げとか縛り首とかには無頓着

48 「後頭部からは鎖が垂れている」エジプトにあるタワーの名前

49 横断の途中で不意に消灯し通り一面無数の幼虫

50 今回は上手く日食できたかな? ざわめく風はご褒美のミサ

51 遊歩道団地の北は日陰がちボブの少女が消えた木の洞

52 奥多摩の川原に近い青葉村若さを保つ機械の噂

53 歓声が絶えない夏のブラタモリ河岸段丘にある滑り台

54 濃密に吹くそよ風に暴かれて小学校がない住宅地

55 次々と襟首が往く木漏れ日の道を快走してサイクリング

56 日影から蝉がおしっこかけて飛び葉月の団地がびしょびしょになる

57 匿名で犬歯の差し歯を受取って焔に照らす吸血鬼かな

58 手の甲がアフロになった堕天使はガラスの八重歯がかわいい♡(ハート)

59 境内の澄んだ空気に槍二本太い絆と激しい敵意

60 カラフルな野次馬たちがいる現場緊急車両が共鳴してる

61 うたたねが光るふんどし垂らしてる守り神ならご利益がある

62 夜想曲 聴こえるでしょう神社では石も呼吸をしているのです

63 新しい信玄餅と猫二匹どちらも手の中で反りかえる

64 マスクして正座してれば他人です羞恥心ではなく無関心

65 選びなさい次の輪廻は癖っ毛か蛙かスーパーボールか鬼か

66 引越の荷物はパイプ椅子だけで引っ越し先はキャットウォークに

67 二人ともゲリラ豪雨の登り棒みたいにびっしょびしょのまんまで

68 うなじからくるぶしまでを見張る役CIAの新人研修

69  雷のせいですべてが短調に響く時代のメロディーメーカー

70 伝説の撥を持たずにフルコンボ この感動を共有したい

71 煙突の煙で五輪招致した昭和時代の炭鉱跡地

72 ゴム製の友達だって吊り革で知恵の輪遊びをしてもいいじゃん

73 インパラ跳ねるウサギ跳ねるバスケット跳ねるステージ跳ねる青春

74 下駄ばきで八百屋の梯子上るとき見上げた金魚に性が目覚める

75 革靴でライブハウスに来る山田ドラムロールでバナナジュースを

76 定番の回すモノならフラフープ レコード 経済 自転車のリム

77 裏拍で乗ればロデオは無敵だと笑う男に裏ドラがのる

78 新館のお披露目として夜店から龍の卵を預かりました

79 骨伝導イヤホンみたいに鳴り響く目覚まし時計で粉砕骨折

80 YMO音頭をとるかとらぬかでもめてる盆踊り保存会

81 子供らが天眼鏡で蟻を焼く本能逃げる蟻の本能

82 裏原に木製の電信柱一糸まとわぬ肉体の門

83 求愛のアーチをかける土ホタル性欲も食欲も満たして

84 陰陽の術なる奇門遁甲の防禦の門に隊列続く

85 万物の元素を探求してやまぬ科学者たちの集うY字路

86 捕食者に被捕食者を捕食することを止めよと書くプラカード

87 飛行機で見た「ぞろぞろ」という落語中国出張命令中に

88 かけ声の撥音便が気になって加藤に規律通りに告げる

89 原型はホラ貝かもといいながらホルンはくるくる唾液を捨てる

90 遠山はことに絆を強調し桜吹雪を出さずに済ます

91 雇止め通告されて空き缶でなんとかしたい東急ハンズ

92 公園の鳩にチラチラ導火線古い鋏でなんとかしたい

93 複雑な手順を踏んで上様の領収書ではいけない予感

94 二次会はツッコミ不在見え見えの見えない糸を見ないフリして

95 営業が直行直帰する墓場カン違いしたまま八時間

96  恋人が死を覚悟する瞬間にスマホがバイブするおまじない

97 足裏のこの感触はカニクリームコロッケか冬の無意識か

98 分担は絶対なので口笛と貧乏ゆすりの交代は不可

99 保土ヶ谷の居抜き防災シェルターの裏と表にあるオイル染み

100 血管をマックシェイクが流れてるピザがあったら分けて下さい

101 痛い事ほど試したいタマネギをそのままぶつけられたりするの

102 人類の持てる力を発揮して襟足だけを伸ばさせないで

103 もっと深く刺して無かったことにして夜は明日もやってくるから

104 チョップする風切り音のASMRで食べていこうと思う

105 冬眠をしてるあいだに甘噛みをされてたせいでまだらになった

106 牛を連れ海でのんびり日暮れまで予定調和の狂言誘拐

107 シルクでも上手に打てば蚯蚓腫れくらいはできて当然ですわ

108 体操をしてる間に置き配で人間椅子とホルンが二台

 

というわけで、108首そろえることに意義があるこのチャレンジ。

短歌の作り方として、マンダラートは2023年も活用していきたいと思いますし、もっといろいろと見聞きして、ワードを増やしていきたいとも思いました。

それでは。

令和四年十二月の自選短歌五首

2022年も終わりましたね。

晦日はとくに短歌三昧の素敵な一日になりました。

朝から、「大晦日108首チャレンジ」にとりくみ、夜は「CD短歌年越し2022」

【♪】リビングに螺旋階段ある家のグランドピアノみたいに謙虚

で、初めてボランティアも経験しました。

私は短歌が苦手です。だけど短歌は楽しいんです。短歌を作ろうといろいろなことを巡らすことは無常の喜びだからです。けっか、短歌は上手くできないとしても確実に世界との関わり方は豊かになります。短歌は素敵です。

 

それでは令和四年十二月の自選短歌五首です。

令和四年十二月の自選短歌五首

12月5日 『 誰 』
砂時計ひっくり返すそれだけで誰かが死なずにすむ仕事です


12月10日 RIUMさんの#初句
本当は世界はみんなモザイクで薄目で妄想してるだけだよ


12月15日
どうやって弾けばいいのか分からない楽器の上で暮らしています


12月18日  RIUMさんの#連想短歌 歴史上の人物
弁慶と牛若丸が温泉の脱衣所に置く薙刀と笛


12月25日 RIUMさんの#初句
夜が明けてキャリーケースに詰め込んだサンタ衣装を死骸と思う

 

以上です。