宇祖田都子の短歌の話

森羅万象を三十一音に

獅子座同盟11 より 好きな短歌の感想を書きます

獅子座同盟は獅子座生まれの夏の風物詩です。

kohagiuta.com

 千原こはぎ様主宰のさまざまな短歌集は、短歌を作るうえでとてもありがたいモチベーションとなっています。本当にありがとうございます。

 11年目を迎えた「獅子座同盟」。わたしは多分、9回目くらいからの参加だったと思います。テーマは「星・宇宙・星座・獅子・夏」の七首連作と、小文、そして自己紹介文となっていて、特筆すべきは、「小文」があることです。短歌連作を補完する作品だったり、連作制作過程。また作者の世界観の紹介など、ひじょうに趣のあるものばかりで、今回はこの「小文」についても好きなものをご紹介したいと思います。

 以下に引く「好きな短歌」は、ツイッターにあげたものです。そして最後には自作も、記録として載せておこうと思います。

獅子座同盟11 より好きな短歌

「遠い星」一首目 桐野黎様 @Tower11710

遠い星遠い言葉と遠いひと遠いものしか愛せないまま

 近づくと肉の臭いが気になって。リアルさが愛を変質させてしまうようで。わたしからなるべく遠いものならばわたしを変えずにいつくしむことができる。それは失われたものの遠さで、間接的な波としてのみ触れられる幻想なのかもしれず、端的に言えば「魂」でしょうか。でもだけど遠いものとはすぐ間近を通り過ぎて行ったものだけなのだなと感じます。

「星の街」五首目 かわはら様 @suikamikan_kawa

宇宙飛行士になりたいという君に白いジグソーパズルを送る

 白いジグソーパズル。それは光であり、宇宙の無限さであり、限界であり自由でもあり、秘密であると同時に答えでもある。そんな気がします。「君」はその表層に何を見るでしょう。そしてそれを送った主体はそこに何を映したのでしょう。

「Butterfly effect」六・七首目 文月郁葉様 @198hitomosi

両翼を持たざるわれら両腕で鎖されしドアを開くいくつも

ひるがへすスカートの裾 Butterfly effectはもう始まつてゐる

 リスペクトと旗印。飛ぶことはできないけれど確実に一歩ずつを踏みしめていく。踏ん張って閉ざされたドアを開けていく風が地球の裏側にまで大きな影響を与えていくのだ。ファッションであり歌であり。それらは「スタイル」と呼べるのかもしれません。そして「小文」も、素敵にかっこいいのです。

「アンタレス」二首目 千原こはぎ様 @kohagi_tw

いつものようでいつもと違う夏がきてやっぱり星の見えない窓辺

 言葉では言い尽くせない感謝を伝えたいです。本当にありがとうございます。
 切なる思い。とらえきれない喪失感を、星の見えない窓辺を離れ、星々の遠さで埋めていこうとする感覚に、まだ感情がとらえきれないための静寂を感じる連作でした。アンタレス。サソリ座の赤い星。とても印象的でした。

「星屑夜」三・四・五首目 水也様 @m_iya_o

未来とは夏とは夢を見ているよふりそそぐ永遠(とわ) 死と知ってるよ

ひまわりの迷路をあるく君がいるやさしい幻はもういない

すこしだけうつむいているこいぬとか撫でてみている綿のつまった

 宇宙を感じるときの、生と死の曖昧さはなんだろうと思います。星々のあまりに永く遠いことが、人はまるで対局にあるようで、すべてが幻かと思われるほどに尺度の異なる世界のようで。そんなとき確かな何かを感じて安心したくなる。夏もそう。夏もまた宇宙に似ている気がしました。それは陽炎の迷路。思考を否定する魂だけが右往左往する季節。

「小炎」一・七首目 堂那灼風様 @shakufur

星が燃える仕組みを知ってもわからない星はどうして燃えているのか

星々のはるかな流転のなかにあり私をつくるわずかな元素

 壮大な輪廻を歌う連作と感じます。それを司どるのは炎。理由のわからない炎が焼き尽くしそして再生を繰り返す。私が私であるための元素はさほど多くはない。けれど、それらの元素は、壮大な宇宙の輪廻のプロセスに生じると知るとき、宇宙は私であり私は宇宙であるという感覚が芽生えるように思いました。

「ライオンがかっこよすぎる」四・五首目 宮嶋いつく様 @miyazima_izq

ライオンの首を蹴り折る脚力とバチクソしょぼい脳を持つ鳥

ライオンをものともしないキリンさえ迷わず呑みにむかうペリカン

 こうした短歌を詠む宮嶋様がかっこよすぎる、とまず感じました。ここで、ライオンは無敵ではないのだという認識。しかしそれでもかっこいいのは、やはりヒーローとしての宿命を自らが生きようとするためなのだと思いました。もちろん、守るべきは愛するものたち。ヒーローとはとかく、個人的事情から世界を救うものなのだなと思います。

「獅子たる我の」一・六・七首目 森内詩紋様 @NJq4oEvg5glcRpu

我は獅子 炎天に清く咲きかおる八又の百合の乙女の詩歌(うた)の

我は獅子 我が咆哮は詩歌(うた)の屍(し)を弔うがため捧げ置く薔薇

紺碧の天にレグルス金砂には足跡一つ 獅子たる我の

 格調高い連作。まさに短歌の醍醐味を満喫できる連作です。それは「小文」でさらなる深みを堪能できます。獅子としての矜持、プライド。孤高を歩む歌人の歌う理由が悲しみと怒りであること。それは獅子の咆哮であること。獅子座同盟の旗印にふさわしい連作と感じました。

「八月十二日の彼女と」四・五首目 一色凛夏様 @88rinrin23

いつだって笑顔・明るい・やなことはすぐに忘れる(少しだけ嘘)

二人して散々泣いてなんとなくすっぴんのまま星を見に行く

 女子高校生吹奏楽部の日常歌、という趣で、そのころを思い出しながら読みました。いつだって元気、楽しい、サイコー。なわけはないけれど、だけど二人でいるときは、春夏秋冬いつだって真剣だった。そしてまた真夏をともに駆け抜ける最強の友達。まさに夏という感じ。

「ライオンになれなかったネコ」三・四・七首目 夏生薫様 @kaorunatsuo

キッチンでとうもろこしの汁啜る一粒ごとに犬歯立てつつ

ひぐらしよこれが夢かななつかしい熱をはらんだ庭の風かな

太陽と入道雲に両手振る姿のままにさらばひまわり

 本能的な歌と感じました。本物のネコはとうもろこしの汁を啜らない、とすれば「ネコ」は主体の比喩でしょうか。過ぎ去りしものへのいら立ちを感じました。ひぐらしの「かなかな」の繰り返しや、秋を感じる風になびくひまわりを見ている感じ。また夏に置いて行かれてしまうんだな、なんて少し不貞腐れながら、仕方なくバイバイと手を振り返す情景を空想しました。

「流星群のあと」一・三首目 高田月光様 @v8QdMu8WOfj9vbi

心臓はひとりにひとつこれ以上求めてはだめ桃を手にとる

浴室はあかるい夜空からだぢゆう流星群のあと光らせて

 「滅び」がテーマと思います。けれどそれは、破壊や喪失や悲しみとは違って、なにか満ち足りた、満足した、一区切りがついた滅びであるように感じました。運命を受け入れるとき、人は夜空に抱かれ、そして夜空になるのでしょう。すべてはそこに生じ、そこにまっとうし、そこに滅びる。けれど消滅ではなくてやはり、再び光は放たれるのだと思います。それを希望と呼ぶことは少し保留したいのですが。終焉と滅びは違う。滅びには美があり、美は永遠なのだと、そんなことを感じました。

 

好きな小文の感想

早川夏馬様 @kakahayama 『白色より』

骨格標本の描写。その静寂。存在感の確かさと不確かさの狭間でただただ白い骨。

麻倉ゆえ様 @AsakuraYue 『あの子の月影』

「あの子」気になります。伝えきれなかった星空、気になります。「あの子」の言葉、描いた絵。それは見る人を変えてしまう力をもっているような気がします。 

 

自作「ここからは宇宙」七首 + 小文

盆踊り時間を止めろ星だけが通行できる夜の裏道

星たちが持てる力を発揮して夏合宿のバス停を裂く

法律に触れずに曲げるほうき星匂いで当てる架空のリスト

いにしえの天文台座礁してクジラみたいな重力の星

片言で夜と話せば血管を駆け抜けていく星のプリズム

夏の夜の座敷に集う星々となかったことにするDNA

なくなった星の彼方に月は満ち身体をもたないけれど生きてる

 

小文

ここからは宇宙と言われ宇宙から生まれた淋しい宇宙のわたし。

だとしても潮の満ち引きに応じてコップの水も少し震える。

月光に満たされている真夜中の体をそっと逃がしてあげる。

皮膚というグレートウォールだけが持つ触れるという感覚を信じて。

星々の淋しさはシャンパンの泡みたいだね乾杯おやすみ。

 

以上です。素敵な歌をありがとうございました。獅子座同盟万歳